英語あそびなら天使の街

在L.A.言語オタ記。神さまのことば、天から目線の映画鑑賞日記。

映画 City Hall (2020) を家で見た。フレデリック・ワイズマン『ボストン市庁舎』

City of Bostonが行使される場をひたすら追いかけたドキュメンタリー。
大変リッチで面白かった。

公共政策という学問領域が肉をもって活きている感じがする。
クオモNY州知事の周囲をかためる行政官を見ていても思うこと。

結婚式に立ち会い、"By the authority vested in me by the State of California, I pronounce you..."の決まり文句を聞くたび、自治体という顔のないものが実体を伴って迫ってくる。
ちなみにこの映画でMassachusettsに代わってその宣言をしたスタッフさんはカンペ見ながら噛んでたけどね...。

私が日常、日米の公僕から受けている素晴らしいservice、他方、かれらの上に立つ、一応私たちが選んだていの公僕が自腹を肥やすことしか考えていないことに思いを巡らした。
ほんっとに、公の僕になりたくない人は公僕にならないでほしい。

市長や各セクションのトップ、外部団体のパネリストまでさまざまなスピーカーが登場して雄弁をふるうが、誰ひとりとして役職や名前のキャプションは表示されない。
周辺情報をたよりにしない限り、役職や名前は不明である。
当然、大勢の聴衆、会議参加者も同じ。
そして、集まりの目的や日時場所もあえて説明されることはない。
でも、それぞれのグループや個人の仕事や、熱意を持っている事柄はちゃーんと分かるのだ。

つまり、誰もがシティの一市民、プラクティショナー、アクターとしては同等なんだということ。
そして、これはたまたまボストンだけれども、どの町にも置き換えられる民主主義のワンシーンなんだということ。

ここに出てくるあらゆる「集まり」が今年はぶっ飛んだのだと思うと、恐ろしい損失だと思う。
特に、弱い人、弱い人のために声を上げている人がこの場を失ってどれだけのことが見えにくくなったか。
駐車違反の不服申し立て、民家の衛生チェックでさえ。

住宅計画の公聴会はじめ、出席者がほとんどノートパッドで手書きのメモを取っているのに好感をもった。
パソコンパタパタは、特に大人数の場合、どうしても積極的な傾聴と発言の妨げになると思う。
日本の記者会見に出てるレポーターとかみんなパタパタしてて、文字起こし職人になり下がってるよね。
いや、その場で記事に仕上げてるんだよ、と言われるなら、それよりももっとまともに質問して食い下がってほしい。
(あべ以来、日本の政治家がまともに質問に答えようとしないことは知っての上で言う)

ついでに言うと、わずかn=5だけど、できるプログラマさんはノートパッド派。
もちろんPCやタブレットも手元にあるんだけど、メモや自分用の図は紙に書いてるの。
組んだ足にノートパッドを載せているのがカッコよく見えるというのもある笑(女性もいます、念の為)。

さまざまな会合の合間に、人間が極力写り込まないようにした風景カット、良き。
清掃車が通った後も片付いていないままの落ち葉を写していたのはちょっと意地悪。

これ、ポートランド(OR)、ラスベガスあたりのバージョンを見てみたい。
大阪市バージョン、草津町バージョンだったらどうだろうな。
一面おっさんで内輪にしか通じない言葉で喋ってそう & 自分の商売の話しかしてなさそう...。

ゴミ収集車がマットレスからバーベキューグリルまで粉砕するいかつさに釘付け。
うちのまわりだったら外に出してある家具は誰か欲しい人(転売ヤー含む)が取りに来るまで放置。
特に家電は誰かが見張っていたんじゃないかと思うくらい、瞬時になくなって笑える。
どっかで見つけたらしい素敵な机を引きずって歩いてる人を手伝ったこともあったなァ。
戸口まで一緒に運んだら、You are my angelって言ってくれたっけ。

建国のアーティファクトがたくさん映るのも楽しい。
フェンウェイさえ、この国では遺跡みたいなもんやからね。
フリーダムトレイルはこれまでに3度歩いたけど、いつも1日2日のaction packed旅だった。
次はじっくり滞在したいな。

冒頭の予算プレゼンで映っていたボストン市のシール。メイフラワー号上陸から時を経ずしてスタートした街らしいモットー。

SICUT PATRIBUS, SIT DEUS NOBIS
BOSTONIA CONDITA AD. 1630 CIVITATIS REGIMINE DONATA AD. 1822.

7/2021追記、日本の記者の文字起こし職人の件について。
日本はテキストデータが提供されないので、各社パタパタ専門の人をおかざるを得ないのだという事情を聞いた。他方、米国は必ず終了後に配布されるきまりになっているという。考えてみればそれが当然じゃないか...。変えてこう、日本...。

10/2021追記、日本で劇場公開されることを知った。一年遅れとはいえ、英断。

トレーラー。なんと272分の長尺。本当にその長さに意味がある長ーい映画は稀有だと思う。こういう映画こそ映画館で集中して見たかった。やっぱり自宅だと一気見はできなかったので...。

2020年 映画館または家で見た映画ベスト3

未だに映画館が再開していないロサンゼルス。
それどころか今週、この街は世界最悪のエピセンターになってしまった。

もともと部屋で長時間の映像を見るのは得意ではないのだが、そうせざるを得なくなったおかげで地元図書館のストリーミングサービス(月10本まで無料)を知り、見逃していた過去の佳作に出会えたのは収穫だった。
それから、ロックダウンまでの短期間にリサーチ・スクリーニングにも3度行くことができた。
そのうちの2本がとても良かったのだが、どちらも今年は公開されず。

スケールは文春シネマチャートの一部真似です。気に入った作品順。それぞれ、鑑賞日の日記にリンクしています。
3月までに映画館で見られた数少ない作品には<映画館>のラベリング。

★★★★★ もう最高!ぜひ観て!!
Born to Be 『ボーン・トゥ・ビー』
The Surrogate 『ザ・サロゲート 代理母』
Driveways (2019) 『ドライブウェイズ』

★★★★☆ 一食ぬいても、ぜひ!
Clemency (2019) 『クレメンシー』<映画館>
City Hall (2020) 『ボストン市庁舎』
Straight Up (2019) 『ストレートアップ』 <今年、映画館で見た最後の作品>
The Assistant 『アシスタント』<映画館>
Little Women (2019) 『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』<映画館>
The Cave (2019 シリア) 『ザ・ケイヴ』<映画館>
Collective (Colectiv) 『コレクティブ 国家の嘘』
Saint Frances (2019) 『セント・フランシス』

★★★☆☆ 料金の価値は、あり。
Softie 『ソフティ』
House of Hummingbird (2018) 『はちどり』
Emma. (2020) 『EMMA エマ』<映画館>
Diana Kennedy: Nothing Fancy (2019) 『ダイアナ・ケネディ:ナッシングファンシー』
Just Mercy (2019) 『黒い司法 0%からの奇跡』<映画館>
Hidden Life (2019) 『名もなき生涯』<映画館>
Ammonite 『アンモナイトの目覚め』
Finding Yingying 『ファインディング・インイン』
Miss Juneteenth 『ミス・ジューンティーンス』
Ordinary Love (2019) 『オーディナリー・ラブ』<映画館>
Les Misérables (2019) 『レ・ミゼラブル』<映画館>
For They Know Not What They Do (2019) 。『フォア・ゼイ・ノウ・ノット・ワット・ゼイ・ドゥ 彼らは何をしているのか、わからずにいるのです』
The Donut King 『ドーナツキング』
Yes, God, Yes 『ストレンジ・フィーリング アリスのエッチな青春白書』
Portrait of a Lady on Fire 『燃ゆる女の肖像』<映画館>
Spaceship Earth 『スペースシップ・アース 宇宙船地球号』

★★☆☆☆ 暇だったら……。
Coming Home Again 『カミング・ホーム・アゲイン』
Blackbird 『ブラックバード』
My Prince Edward (2019) 『金都』
Irresistible 『スイング・ステート』
Wander Darkly 『ワンダー・ダークリー』
Tommaso 『トマーゾ』
Clementine (2019) 『クレメンティーン』
Uncut Gems (2019) 『アンカット・ダイヤモンド』<映画館>
1917 (2019) 『1917 命をかけた伝令』<映画館>
Invisible Life (A Vida Invisível) 『インビジブル・ライフ』<映画館>

★☆☆☆☆ 損するゾ、きっと。
Lingua Franca 『リンガフランカ』
Bombshell (2019) 『スキャンダル』
Sibyl (2019) 『愛欲のセラピー』
Starting at Zero 『スターティング・アット・ゼロ』

☆☆☆☆☆ ていうか、見たっけ?
Shirley 『シャーリー』
My Darling Vivian 『マイ・ダーリン・ヴィヴィアン』
The Photograph (2020) 『ザ・フォトグラフ』<映画館>
José (2018) 『ホセ』<映画館>

● その他、家で見た封切作以外の映画
2020年アカデミー短編ドキュメンタリー映画賞ノミネート作5本を一気見<映画館>
Babette's Feast (1987) 『バベットの晩餐会』★★★★★
Brokeback Mountain 『ブロークバック・マウンテン』★★★★★
Revolutionary Road 『レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで』(ラストの賢者カット最高)★★★★★
13TH 『13th -憲法修正第13条-』★★★★★
The Hours 『めぐりあう時間たち』★★★★☆
The Miseducation of Cameron Post 『ミスエデュケーション』(心優しいマークが友人の姿に重なって悲しかった)★★★☆☆
Colewell 『コールウェル』★★★☆☆
택시운전사 『タクシー運転手 約束は海を越えて』★★★☆☆
The Tale 『ジェニーの記憶』★★★☆☆
The Virgin Suicides 『ヴァージン・スーサイズ』★★☆☆☆
The Truth 『真実』★☆☆☆☆
Destination Wedding 『おとなの恋は、まわり道』★☆☆☆☆
The Squid and the Whale 『イカとクジラ』★☆☆☆☆
Mariko Minoguchi's Mein Ende. Dein Anfang. (Relativity) @GERMAN CURRENTS FILM FESTIVAL ★☆☆☆☆

ingoditrust.hatenablog.com

映画 Ammonite を家で見た。ケイト・ウィンスレット × シアーシャ・ローナン『アンモナイトの目覚め』

えっと、『燃ゆる女の肖像』と同じ話だった。

潮風に洗われて立ち上がる原始の鼓動、期間限定ゆえの輝き、思わず寝姿をスケッチしてしまう瞬間、オーガニック野菜とゆで卵の質素な食事、ピアノ、刺繍、そして都会での再会が蛇足なとこまで、共通の要素も多し。

でも、ディテールは本作のほうがずっと好きだ。
立ちションをした手でパンをちぎるところなんか出色。
ただし、ファッションとスタイリングは『燃ゆる女の肖像』がフランスの面目躍如。一張羅姿のローナンがなんか婆やっぽくて...。

手作業に没頭すること、他人を助けることが癒しになるという事実がよく描かれていたと思う。
It's all about forgetting yourself.

Merry Christmas.

トレーラー。

映画 Wander Darkly を家で見た。タラ・ミーリの『ワンダー・ダークリー』

死をフレームにカップルの闇を深掘りするスリラードラマ。
あんまり好きじゃなかった。
「死」いらなくね?

含みのある"I can't breathe"のセリフもあまりうまく活かされていなかったと思う。
どうしてもBLMの記憶に気を取られるしね。

Faithとtruth、そしてfriendとmateをキーワードにした2人のオリジナルの結婚誓約がとても素敵。牧師がリードする定型文を使いたくない人は、マネしたらいいのでは。

イルカの群泳を見ると、神の存在を認めずにはいられない。
自我に邪魔されず生まれたまま、プログラミングされたとおりに生きている生き物の姿は美しい。
かれらは人間に仕込まれたから、エサのご褒美がもらえるからじゃなくて、ただ楽しいから飛ぶのだ。

ハワイでイルカを見に行くボートに乗ったとき、「もうこのツアーは禁止になるかも」と聞いた。
本来、昼間はイルカの睡眠時間なので動物保護の観点からということだった。
でも、この映画みたいに早朝に行けば負荷は少ないのかも?
人間の勝手は変わらないけど、あの姿がもう見られないのは残念だと思う...

ごく平凡な作品だが、ロサンゼルスの日常風景をたっぷり取り込み、スピリチュアル、ニューエイジに甘いハイソ媒体のレビュワーたちが高評価をつけている。

トレーラー。

映画 Finding Yingying を家で見た。ドキュメンタリー『ファインディング・インイン』

2017年に中国人留学生インインが行方不明になったイリノイの事件を、彼女のオリジンも含めて追いかける。
勉強好きで家族の希望の星だったインインとの共通点も多いJiayan Jenny Shiの監督デビュー作。

学生時代の足跡をたどるボーイフレンドの前に傷ついた鳥が舞い降りてきて彼が埋葬するところは、あまりにもできすぎた鎮魂歌。
あれが北野武が言うところの「映画の神様」降臨だろうか。

事件の日から2年あまりの経緯はただただ痛ましい。彼女の「最後の願い」がどうかかないますように。

遺族の旅路には、インインの加害者のみならず(法廷で笑ったり食ったりする傍若無人)、人の弱みに付け込む人、人の傷に塩を塗る人が次々と出てくる。

特に腹が立ったのはインインの居場所を教えよう、と営業をかけてくる自称サイキック...。
「ありえん」と分かりつつも藁にもすがる思いで、結局彼女の言う場所にも行ってみる遺族とボランティアたち。

テレビで人の生死について深刻な出まかせを言い、苦しむ人をさらに失意に陥れたシルビア・ブラウンを思い出す。
後で大ハズレが分かっても平気な顔してたよな。

21世紀の偽預言者の跋扈、やばい。
今年がこんな特殊な年になるなんてリアルに予言できた人は誰もいなかったでしょ?
(「この年は災害が起きる」とかいうざっくりしたのは予言ではありません。私でも言える)
ビル・ゲイツがかなり正確に「予測」をしていただけで。

監督、製作出演のオンラインスクリーニング企画。閲覧数少な...。