英語あそびなら天使の街

在L.A.言語オタ記。神さまのことば、天から目線の映画鑑賞日記。

2024年アカデミー短編映画賞ノミネート作5本を一気見した。

今年度も時間の制約を味方につけたアートがすばらしかった(アンダーソン作品を除く)。
私が気に入った作品順に。

■ Red, White and Blue
今日はスーパーチューズデー。身につまされた。
中絶を禁じることの問題点を最も効果的に見せるギミックに翻弄される。そして、自由を希求するロードトリップにはやはり「路上でカーラジオにのって絶唱する」シーンが伴うのだった。

昨日、フランスが中絶権を憲法に明記することが決まったという明るいニュースがあった。こんなふうに他の社会が焦って動いていくなら、この国の愚行にも意味があろうというものだ。失敗例としてどんどん参考にしてね泣

トレーラー。

■ The After『彼方に』
これと同じことを2時間かけてやって全然印象に残らないフィーチャーフィルム is 何。

ネトフリで公開中。

■ Knight of Fortune
都会のおとぎ話系。

The New Yorker スクリーニングルームで公開中。

■ Invincible
実在の少年がモデル。30分でここまで語り尽くせるという事実に感心してしまった。いやだって、少年の繊細さとクリエイティビティ、彼と対比される他の子たち、たまたま生まれたタイミングで決まる社会不適合の概念の理不尽、少年院の実態、愛ある家族、思い返すとあれもこれもそれもどれも書き込んであったよ。すげえよ。っていうか、これと同じことを2時間かけてやって全然印象に残らないフィーチャーフィルム is 何(2回言った)。

トレーラー。

■ The Wonderful Story of Henry Sugar『ヘンリー・シュガーのワンダフルな物語』
見てる側の呼吸が浅くなってしまう37分間のながーい紙芝居。ウェス・アンダーソン苦手。このひとの世界、チューンインするだけで数分消費するから短編に向いてないと思う。

ネトフリで公開中。

平日マチネ、14.25ドルで鑑賞。

【3/10追記】
ハイ、結果は大方の予想どおりでした。つまらなすぎ。相変わらず、アカデミー会員は候補作を全部見ずに投票してるっしょ、なんなら受賞作すら見てないっしょ(八つ当たり)。少なくとも、私が行ったスクリーニングでは、明らかにRed, White and Blueへの反応がいちばん良かったことを記録しておく。展開に息をのみ、エンドクレジットでざわめきが起きたのはこの作品だけでした。

映画 Drive-Away Dolls を見た。イーサン・コーエン『ドライブアウェイ・ドールズ』

聞いてたとおりくだらないのだが、いい意味で身の丈を熟知しているのがうかがえるプレゼンテーションで好感をもった。こういうのを等身大というのだろうか。
ベテランのカメオ出演も度量の深さが感じられてすがすがしい。内輪っぽい臭みがない。
イーサン・コーエン若いなぁ。親と同世代だと思うと感心する。

『テルマ&ルイーズ』へのオマージュにもとれる描写がちらほらあったので、これまでに見たマイノリティが主人公のアメリカン・ロードムービーをあれこれ思い返していた。
30年かけて随分遠くまで走ってきたものだ。
明示的に何かに追われることはなくなったけど、赤い州に入るのは身構える、というね...。
個人的には「路上でカーラジオにのって絶唱する」シーンがなかったのがすごくよかったと思う。
They already unleash themselves on their own.

ウチにもひとつ欲しいカッコいい大型立て看

マーガレット・クアリー(オカンに似てきたね)の衣裳が好き。ボートネックと白シャツの着こなしが超かわいい。

平日マチネ、7.5ドルで鑑賞。
半分すぎたあたりでフェローオーディエンス2人が帰ってしまい、150席ひとり占めした泣

劇中、マリアンがはまってる本。

かたやジェイミーがヘンリー・ジェイムズを嫌うきっかけになった作品。

ちなみにチーフが最後に読んだのもジェイムズ作品でした。気の毒に...

トレーラー。

映画 Origin (2023) を見た。エイヴァ・デュヴァーネイ『オリジン』

激動の2020年に大ベストセラーになったIsabel Wilkerson著Casteの執筆譚を下敷きにしたインスピレーションジャーニー。
刺激的だった。あらゆる問題は、言語化・見える化しない限り絶対に解決できない。

日本にもいろいろなカーストがあるよね。
高校時代、定期的に同和教育の時間があった。
友人のひとりは、教えられなければ部落なんか知らなかった、わざわざこんな授業をしないほうが差別はなくなるんじゃないか、と言っていた。
私は即座に「違う」と思ったのだが、なぜ違うのか言葉にできなかった。
この映画の中にはその答えがある。
彼女の意見に対して、いやいやいや、私たちは絶対に知り、記憶しなくちゃいけないんだよ、と明言できる根拠が明快に書かれている。

MAGA帽をかぶった不親切な配管工に対するイザベルのリレーションのしかた、すごくいいなぁ。真似したい。
なかなかあんなふうにはうまくいかないだろうけど。

それから、ひとりだけプールに入れなかった少年に寄り添う祈りもいい。
私も苦しんで泣いている過去の自分のそばにいって"Everything will be alright"と声をかけることがあるけれど、あれを全然知らない人や故人やまだ生まれていない人のために祈るときもやればいいんだな。
明確にイメージして「絶対大丈夫、万事うまくいくよ!」と肩を叩くの。

原案。

トレーラー。

映画 The Zone of Interest を見た。『関心領域』#CeasefireNOW

『ファイナル・アカウント』のナラティブをドラマチックに再現してくれた感じ。

もう20年近く前だが、ダッハウ強制収容所跡を訪れたとき、小学生くらいの子どものグループが石の上に座ってお弁当を広げていて驚愕したのを思い出した。ポーランドを旅行した世界史の先生から、アウシュヴィッツでは空気が異様すぎて嘔吐してしまったと聞いたこともあり、かなりビビっていたのに。
それから、囲われた広大なスペースを享受する日本の米軍住宅地も連想した。

私自身が身につまされるのは当然のこととして(この映画の中でいう犬、赤ちゃんほどに敏感でいるのは不可能だろうが、せめて「外から訪ねてきた人」と同じくらいにはwrongnessを自覚し、行動に移せる状態でいるには日頃どうすべきなのか)、西側様、白人様におかれましては、壁の向こうにいるのがPOCであっても同じ問題意識を発動してほしいと願わずにはいられない。

ルドルフの頭頂部がちょいちょいキッパに見えるのはわざとか。

【3/10/2024追記】
みごとにアカデミー国際長編映画賞を受賞したわけだけど、皮肉にも今回の式典は白人様の関心領域においてアジア系は人間として存在していないことをわっかりやすっっく浮かび上がらせたおぞましい見せ物になった。dehumanizationってああいうこと。キー・ホイ・クァン、ミシェル・ヨーに対するダウニーJr.、E・ストーン、J・ローレンスの仕打ちにかなりダメージを受けている。

原作小説。

トレーラー。

映画 All of Us Strangers (2023) を見た。アンドリュー・ヘイ『異人たち』

夢現の意識の流れを描いた作品としては、これまで見た中で段違いに良かった。
ポール・メスカルに負うところがすごく大きい。あの終始コントロールの効いた呼吸。『アフターサン』の若い父親役のイメージを重ねてしまったせいでよけいに良く見えたのかも、と言ったら失礼かな。

シンボリズムとリアルのえぐみが共存するプロダクションデザインが白眉。

昨年末に他界した山田太一の小説『異人たちとの夏』の骨組みを借りた物語だが、中野翠あたりが「なぜ同性愛なのか」とか言い出しませんように。

平日マチネ、14ドルで鑑賞。

大林宣彦の手による1988年作品。

トレーラー。

メスカルの今回の役作りのニュアンスについては心理学徒でもあるポートマンがうまいこと言葉にしてくれてます。