英語あそびなら天使の街

在L.A.言語オタ記。神さまのことば、天から目線の映画鑑賞日記。

映画 Born to Be を家で見た。トランスジェンダー外科を活写『ボーン・トゥ・ビー』

これまでに見たドキュメンタリー作品の中でナンバーワン。
2015年、ニューヨーク州で全医療保険プランに性別適合手術への適用が義務付けられた。
その翌年に開院したドクター・ティン & 医療チームとその患者たちの苦しみと喜びを追う。

ワクワクしながら、時には嬉し涙を流しながら手術台にのぼる患者たち。
マーキングをするドクターを無邪気な期待の表情で一心に見上げる。
麻酔が効くまでドクターの手を握りしめるその手は赤ん坊みたいにvulnerableで、思わずもらい泣きする。

「女」たらしめる、「男」たらしめる人体の要素の多様さ。
いわゆる第二次性徴として明確な点のみならず、おでこの張りとか、顎のまるみとか。
ひとりひとりの患者がパイオニアである。
(中性的な人が往々にして「美しい」とカテゴライズされる理由についても考えた)

自分で貯めたお金で新しい性器を得たDevinに、「息子」との別れが悲しい面もある、痛い思いをしているのを見るのはつらいと話し、しきりにheと言いかけてはsheと言いなおすお母さん。
生まれ変わった、と喜ぶDevinには、その後も残酷な社会の壁が立ちはだかる。

ドーナッツキングに続き、アジア系アメリカ人のあめりか物語でもある。
親からのプレッシャーもまさにアジア系2世、3世のステロタイプそのもの。
音楽を愛するドクター・ティンはジュリアードに進んだものの、「普通の」キャリアを積んでほしい、という親の望みの重さから大学院を去る。
ちなみにバイオリン、ピアノで幼少期からしごき、ジュリアードならむしろ大満足であろうアジア系親ステロタイプも今なおリアル。

ひとつの曲を何度も何度も演奏して一生かけて極めるように、トランジションの手術を生涯かけて完璧に近づける覚悟だという。

神に尽くしたい、というドクター・ティン。
でも、SNSでは差別主義者からの誹謗中傷を受けている。
同じ神のほうを向いているはずが、truth(福音派にとってもこれはJesusとイコールのはず)を完全無視している人たちが大きな力を手にしているこの国にあって、本物の神の御旨だけが成就していくこと、それがドクター・ティンと共にあることを信じる。

私自身は、昔、男子に「チビ」と暴言を吐いたことを思い出して、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいという気持ちでいっぱいになった。
明日は今日よりも、明後日は明日よりもオープンに、骨太かつ繊細な想像力を身につけられるように努力する。
人が社会の構造に合わせるのではなく、社会が生身の人間に合わせて変わっていくべきなのだから。

You’re fighting to be respected.
You’re fighting to feel comfortable in your own skin.

ところでマンハッタンだとどうしても建物の中が狭いよなァ…。
患者さんの急増に伴って早くもオフィスを移転したというけれども、それでもストレッチャーが通りにくそうだ。天井も低い。
救急ではないからなんとかやっていけるのだろうか。

今年は、このクリニックの仕事が「不要不急」扱いにされていないか心配だ。
自殺率の高さを見るまでもなく、ラストの青少年の電話診察を聞くまでもなく、かれらのニーズを満たすのは時間との闘いなのだ。

今日はこんなニュースも。
52 Years Later, IBM Apologizes for Firing Transgender Woman

クリニックでTBCの永久脱毛器が使われていた。
ドクターの自宅には「きのこの山」があった(但し、一番のエネルギー源はハリボとのこと)。

トレーラー。