英語あそびなら天使の街

在L.A.言語オタ記。神さまのことば、天から目線の映画鑑賞日記。

映画 The Boys in the Boat を見た。ジョージ・クルーニー『ボーイズ・イン・ザ・ボート』

胸がすく快作で面白かった。
超教科書どおりの構成と人物配置をはじめ、私の永遠のナンバーワン『プリティ・リーグ』に通じる圧倒的な気分のよさを感じる。
メイン2人の女性関係を省いて、もう少しボートレースの蘊蓄を盛り込んだほうがよかったようにも思うが(お仕事ものは鉄板だから)、何より史実のディテールが勝ちまくっている。
列車のついた巨大観客席がレースを追いながら線路上を移動する、きわどい審判のためにフィニッシュの瞬間をカメラにおさめて暗室に走るといった場面に興奮しない人がいるだろうか。あの審判用写真撮影者の役、絶対できないわ。カメラが適切に作動しなかったら?現像に失敗したら? おそろしすぎる。

五輪を見て、ボートのおさえ役の存在にちょっと感動したものだが、ハドソン川ではスタートが陸や桟橋でなく審判ボートなのが驚き。あれはどうやって固定しているの? 
舵手が着けるメガホンつきヘッドギアは今見るとギャグだが、いつ頃まで使われてたの?
ドイツチームの舵手のカウントのかけ声が長いのも草。37がsiebenunddreißigだからね。あれ、うっすら不利になりそう。数を少ないモーラで表せることがアジア系が理数系に強い要因だとするグラッドウェルの仮説を思い出す(Outliers『天才!成功する人々の法則』)。見れば見るほどfun factが出てきそうだ。

ポキプシーと聞くたびに、Ally McBealのJohnの顔を思い浮かべる人も多いはず。

平日マチネ、12.39ドルで鑑賞。

原作ノンフィクション。

『プリティ・リーグ』といえば、最近書店のランキング棚でこんな本が出ているのを見つけて即買った。30年たってルポが出るほどの大作だっただろうか...と思わなくもないが、そのくらい私と同じように偏愛するファンがいるのがわかって嬉しい。

はるかに小規模ながらボート競技のエッセンスが詰まっていたこの邦画のことも思い出す。

トレーラー。

映画 Ferrari を見た。マイケル・マン x アダム・ドライバー『フェラーリ』

大変に血湧き肉躍った。お仕事ものは鉄板。
レースシーンも最高にゴージャス。
何かのインタビュー記事で読んだあるエンジニアの言葉「なぜ車がスピードを出せるか知っているか? ブレーキがついているからだ」が頭の中を何度も去来した。

ミッレミリアに終止符を打ち込むことになった事故、コースの大半には観衆いないのにピンポイントで悲惨すぎる。
運って、好いのも悪いのも連鎖というよりアキュムレートするのよな。

ペネロペ・クルスが、今まで見た出演作の中でいちばんよかった。
ラテン系のファムファタール役がきまってこの人で、勝手に飽きていたのだが、本作ではフェラーリの手練れのパートナーとしてコケットリーなだけではない魅力があった。

この2日間の日本からのニュースでも身につまされているが、今私が享受しているものを支えている無数のアンサングヒーローを思った。

食事の場面のたびに出てくるパスタがどれもうまそうすぎる。
その何皿かは最後の晩餐になってしまったが。

平日マチネ、7.5ドルで鑑賞。
今日は、映画館近隣のハイクラスホテル2軒でストをやっていた。

原作読む。フェラーリ以外にも興味深い人物がどっちゃり出てきたので。

トレーラー。

映画 The Color Purple (2023) を見た。ミュージカル『カラーパープル』

福音(ゴスペル)のナラティブを触媒にほとばしるシスターフッド讃歌。
原作のわりと大きなエピソードは省いても、主要人物のそれぞれの信仰の言説をしっかりすくってあるのが好き。
神に近づいて若返る、というのは新約のメインテーマのひとつだし。

数々のDVのシーンで、こないだ日本を旅行したとき、某観光地で年配の男性が女性の連れをしつこく罵倒していたのを思い出してしまった。
よくSNSなどで、アクティブ・バイスタンダーになろう、公共の場でその手の暴力をふるっている他人に介入しよう(Is everything okay?と声をかけるなど)と呼びかけられていて、そうだ、見て見ぬふりしないぞ!とか思っていたのに何もできなかった。こっちまで固まってしまって。
男性に対してはもちろん、言われるままになっている女性にも腹が立った。すみません。逃げない人には逃げない人の事情があるのはわかってるつもり。でも、DV相談窓口とかシェルターの存在を、そして何より、I diserve moreと知っててほしい。

原作者のアリス・ウォーカーはTERFなコメントをしているのが個人的に残念。
イスラエルBDS運動、パレスチナ支持のアクティビストでもある。
スピルバーグがメガホンを取ったのは80年代だったが、彼が本作にも製作でかかわっているのは忸怩たるものがあるんじゃないだろうか。そんなん言うてたら米国で大作にかかわれないとはいえ。

平日マチネ、14ドルで鑑賞。

トレーラー。豪華すぎるアーティスト陣によるサウンドとダンスにめまいが。

映画 Maestro を家で見た。ブラッドリー・クーパー『マエストロ:その音楽と愛と』

ハリウッドの権威が好むディアスポラ物語で、あーハイハイと言いたくなる。
バーンスタインのバイオや音楽に興味は尽きないが、目下のイスラエル政府(イスラエルではない)powered by アメリカの非道がちらついて作品を寿ぐ気分になれない。

トレーラー。

2023年 映画館または家で見た映画ベスト3

気に入った作品順。それぞれ、鑑賞日の日記にリンクしています。
今年の私にとって大きかった映画関連のできごとはふたつ。7歳のリクエストで10年以上ぶりに日本の映画館へ行ったこと。ポップコーンの巨大さはアメリカ標準だった。
それから、リサーチ・スクリーニングがやっと近所の映画館で再開したこと。良いオーディエンスであろうとするムービーゴーアーたちと完成直前の作品を共有できるのはやはり代え難い体験。

★★★★★ 世に出してくれてありがとう。ブラボー。
The Little Mermaid (2023)『リトル・マーメイド』
Reality『リアリティ』<自宅で鑑賞>
The Quiet Girl / An Cailín Ciúin (2022)『コット、はじまりの夏』

★★★★☆ 充実した時間だったよ。
Sisu『SISU/シス 不死身の男』
The Color Purple『カラーパープル』
TÁR『TAR/ター』<自宅で鑑賞>
Killers of the Flower Moon『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
Return to Seoul / Retour à Séoul『ソウルに帰る』
Oppenheimer『オッペンハイマー』
The Holdovers『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』

★★★☆☆ まあ、よかったよ。
Air『AIR/エア』
Aftersun『アフターサン』<自宅で鑑賞>
The Boy and the Heron『君たちはどう生きるか』(フライングシーンのない宮崎作品だと聞いていたが、むしろall about flyingだった)
Everything Went Fine / Tout s'est bien passé 『すべてうまくいきますように』
Living『生きる LIVING』
Nyad『ナイアド 〜その決意は海を越える〜』<自宅で鑑賞>
The Royal Hotel『ザ・ロイヤルホテル』
Chevalier『シュヴァリエ』
Anatomy of a Fall / Anatomie d'une chute『落下の解剖学』
Saint Omer『サントメール ある被告』
A Thousand and One『ア・サウザンド・アンド・ワン』
BlackBerry『ブラックベリー』
Past Lives『パスト ライブス/再会』
Fair Play『フェアプレー』
Maestro 『マエストロ:その音楽と愛と』<自宅で鑑賞>
A Man Called Otto 『オットーという男』
Women Talking『ウーマン・トーキング 私たちの選択』
Emily (2022)『エミリー』
The Blackening『ザ・ブラックニング』
Till『ティル』
Full River Red『満江紅』
No Hard Feelings『マディのおしごと 恋の手ほどき始めます』
Eileen『アイリーン』
May December『メイ・ディセンバー ゆれる真実』<自宅で鑑賞>

★★☆☆☆ うん、別に見なくてもいいと思うよ。
Polite Society『ポライト・ソサエティ』
Barbie『バービー』
Master Gardener『マスター・ガーデナー』
Asteroid City『アステロイド・シティ』
A Haunting in Venice『名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊』
Priscilla『プリシラ』
Waiting for the Light to Change (2022)『ウェイティング・フォー・ザ・ライト・トゥ・チェンジ』<自宅で鑑賞>

★☆☆☆☆ うーん、よほどヒマでも近寄らないほうがいいよ。
She Came to Me『シー・ケイム・トゥ・ミー』
Beau is Afraid『ボーはおそれている』

☆☆☆☆☆ ていうか、見たっけ?
Rye Lane『ライ・レーン』<自宅で鑑賞>
Are You There God? It’s Me, Margaret.『神さま、わたしマーガレットです』
You Hurt My Feelings『ユー・ハート・マイ・フィーリングス』
Bottoms『ボトムス』

【今年見た過去作品】
◆『メタモルフォーゼの縁側』★★★★☆
◆『ベイビー・ブローカー』★★★☆☆
◆ Julie & Julia 『ジュリー&ジュリア』★★★☆☆
◆ Causeway 『その道の向こうに』★★★☆☆ 1シーンのみ出演のお兄さん(Russell Harvard)の演技がよすぎる。
◆ Pamela, a love story『パメラ・アンダーソン、ラブ・ストーリー』★★★☆☆
◆ St. Elmo's Fire『セント・エルモス・ファイアー』★★★☆☆
◆ Deux『ふたつの部屋、ふたりの暮らし』★★★☆☆
◆ Marie Antoinette『マリー・アントワネット』★★★☆☆
◆ Mad Max: Fury Road 『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(機内鑑賞)★★★☆☆
◆ Amadeus『アマデウス』★★★☆☆
◆ Girl『Girl/ガール』★★★☆☆
◆ Triangle of Sadness『逆転のトライアングル』★★☆☆☆
◆『怪物』(機内鑑賞)★★★☆☆
◆『Winny』(機内鑑賞)★★★☆☆
◆ Lady Chatterley's Lover (2022) 『チャタレイ夫人の恋人』★☆☆☆☆
◆ 『こんにちは、母さん』(機内鑑賞)★☆☆☆☆ 吉永小百合のマズさに叫び出したくなる。顎が落ちるほど下手。
◆ 하녀『ハウスメイド』★☆☆☆☆
◆ Decision to Leave 헤어질 결심 『別れる決心』 ★☆☆☆☆ 気持ち悪い。
◆ True Things ☆☆☆☆☆
◆ Elephant『エレファント』☆☆☆☆☆
◆ Hillbilly Elegy『ヒルビリー・エレジー 郷愁の哀歌』☆☆☆☆☆
◆ Whitney Houston: I Wanna Dance with Somebody『ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY』☆☆☆☆☆
◆ Friends with Money 『セックス・アンド・マネー』☆☆☆☆☆
◆ Ordinary People『普通の人々』☆☆☆☆☆
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