英語あそびなら天使の街

在L.A.言語オタ記。神さまのことば、天から目線の映画鑑賞日記。

映画 The Inheritance (2021) を家で見た。Ephraim Asili『ジ・インヘリタンス』in ウェスト・フィラデルフィア

大統領就任式に登壇した桂冠詩人アマンダ・ゴーマン氏が、朗読の前にとなえるというマントラ。
この映画ではこのマントラが指す系譜、ファミリーツリーの意味の片鱗にふれられる。

I’m the daughter of Black writers who are descended from Freedom Fighters who broke their chains and changed the world. They call me.

実際に優れた「詩詠み」も続々登場する。

監督が"archive of Black thought"と説明したように、音楽、ポスター、過去の事件時の映像、かれらが詠んでいる本で、次々と新しいドアが開かれる。
北野武っぽい編集も、はじめは「きついかも」と思ったが、街の一景を含めたアーティファクトをじっくり眺めるにはぴったり。

但、最後は陳腐、残念。Inheritanceだからね、わかるけど。

ところで、このShoeless houseを見ていて、靴下姿というのはやっぱり下着姿と同じなんだなと思った。
少なくともアメリカの家を靴下で歩くと絵的にヘンだ。

トレーラー。

ゴーマン氏のマントラが聞ける動画のひとつ。
このインタビューはクーパーの返しと朗読(カンペが手元にあるようなので最後は暗唱してる??)も素敵で永遠にリピートしてしまう。

映画 Promising Young Womanを家で、The Digを映画館で見た。キャリー・マリガン『プロミシング・ヤング・ウーマン』と『時の面影』

ふたりのキャリー・マリガンに出会ったメモ。

●『プロミシング・ヤング・ウーマン』Promising Young Woman

泣いた。
女性は命まで捧げないと性被害の訴えに耳を傾けてもらえないのか。

本編の中の人たちにとってCassieはサイコパスあるいはソシオパス(カウントできただけで3回もそう罵倒されていた)。
でも、サイコパスを据えた物語が嫌いな私から見て、彼女ほど正気な人はいない。

並行してブレット・カバノー判事(断じてjusticeではない)の公聴会、それからスタンフォード大の水泳選手の性暴行事件のときに感じた怒りが改めてわいてきた。
カバノーなんかさ、自分の娘までダシにして嘘泣きしまくってたからな怒。
でまたそれが通ってしまい、訴えた博士は大バッシングを受けて引っ越しまでする羽目になるという怒怒怒。

BFを夕食に招いた日のお父さんの言葉、悲しかったけど慰めだった。
死んだNinaだけじゃなく、事実上、自分の娘まで失われたのがつらいのだと。
本来なら前向きなターニングポイントになるはずだったその夕餉は、後から考えると親として二人がマッチしていないのを感知していたように思える。

フィクションながらクズどもにまともな裁きが下ってほしいと思うが、件の水泳選手みたいに金とエスタブリッシュメントの力で正当防衛、昔の話、とかに矮小化されそうで恐ろしい。まわりの男だけでなく女にも否認が発動しまくる地獄。

力の抜けたボー・バーナム適役、とことんきたねえ男を演じていてそれにも泣いた。

音楽よかった。特にラストのAngel Of The Morningは最高にシュール。80年代みたっぷりのカバーが切ない。
マリガンも気に入ったというToxicのアレンジもぴったり。

スタンフォード大の事件の被害者の勇気ある告発の書は邦訳も出たようで素晴らしい。
彼女が名乗りでてアジア系だとわかったことで、加害者側の言い分の別の闇に光があたった。

トレーラー。

●『時の面影』The Dig

早くイギリスに行きたくなる逸品。レイフ・ファインズが素敵。
物語として、墳丘墓を掘り当てた人にきちんとクレジットを与えているのがいい。
ただ、戦時期の説明役だろうけど、シンデレラ & 兵士カップル必要だった?

トレーラー。

映画 Test Pattern を見た。Shatara Michelle Fordデビュー作『テストパターン』

手際良く多方面の意識を喚起させるコンパクトな佳作。

日本で不幸にして性的暴行を受けたときのレイプキットやカウンセリングへのアクセスの問題については伊藤詩織さんが書いていた
このテキサスでの問題はまた違う問題で、このボーイフレンドがそうだったように性犯罪にあったときにどうすべきか、という知識はあるが、サポートが機能しているかというとまた別。ほんとにこんなミスコミュニケーションが起こるんだろうか。
ジョディ・フォスターの『告発の行方 The Accused』(1988)の検査場面が印象深かったせいか、高度な早期対応システムが構築されているんだろうと何となく思い込んでいた。あの場合は救急の取り扱いで特別だったのだろうか。
今いる場所からrape kit、sexual assaultで検索してみると、信頼できそうなホットラインが出てくるので、この映画の2人のようなたらい回しにはあわずに済むかな、と思う。分からないけど...。

そして、女性のからだは誰のもの?問題。
彼女を責めず、一人でキレ散らかしたりもせず、病院に連れて行くリネーシャのボーイフレンドは一見まともだ。
でもその動機が「俺のモノをやられっぱなしでたまるか」なのでは、主に宗教を笠に着たプロライフ男や女を機械と思ってる政府、人減らしに暗躍する政府と何ら変わらん。
たらい回しの中、「絶対検査、とにかく検査、シッコはそれまでガマンしろ」のボーイフレンドにリネーシャは尋ねる。「いや、なんでアンタがそんなに必死なわけ?」と。

捜査打ち切りを告げられて話は終わるが、犯人がつかまろうとつかまるまいと、彼女の苦しみが始まるのはまさにこれからなんだ。

NYTのレビューが指摘していた、リネーシャが黒人、ボーイフレンドとレイプ犯がどちらも白人である設定もまたサブテキストだ、というのは確かになぁ。
現実を映す努力をすると自ずと「多様性」は達成されるんですよね。
主人公をマイノリティにすりゃいいんだろ、ってことじゃなくて。

トレーラー。

映画 Nomadland を家で見た。クロエ・ジャオ × フランシス・マクドーマンド『ノマドランド』

火星に探査機パーシィを着陸させられても、想定外の寒波が襲った地域で電気を滞らせ、何人も人を死なせているアメリカからこんばんは。
先ほども停電のために酸素ボンベが機能しなくなって1人亡くなったというニュースが入った。
パンデミックを生き抜いてきたんだろうに...。

さて、『ザ・ライダー』のクロエ・ジャオが21世紀の「怒りのぶどう」を撮ったと聞いてとても楽しみにしていた。
ロードトリップを愛するこころに沁みわたるシネマトグラフィ―、映画館で見たかった。

20歳のころ、ある仲良くしていた人に会いづらい状況になってしまい、苦しんだことがあった。
淋しくて悲しくて戻らない時間を惜しんでいたら、私たちのことを何も知らないバイト先の人が適当な感じで「でもまあ、10年たってどこかで会えるかもしれないじゃない?」と言った。
それで私は不思議と救われたのだ。
実際には1年ほどしたら思い出すことさえなくなり、10年目にはどこに住んでいるかも知らず、今後一生会わなくても何とも思わないけど、そのときは、10年という何の根拠もない言葉に、ステートは確実に変わるんだ、と思えて気持ちが明るくなったのだった。
それがこの映画のノマドたちの心意気。
24年前に発せられたヴェガの光をこの瞬間に確かに目にしている私たちの希望であり信仰なのだ。

マクドーマンの人物造形は質実でdecentで素敵。
ひとりでフラフラし続けてるなんて人間嫌いの偏屈者なのではとつい思ってしまうけど、彼女はごくまともな常識人。
いろんな人から「うちを頼ってよ、いつまでもいたらいいよ」と言ってもらえるのはそのため。
彼女が、人を見れば微笑を惜しまず声をかけ、コーヒーやたばこやパンを分け、別れるときは丁寧に、でもサラっと別れる、ordinaryな良きアメリカ人だから。
私もあんなふうに人と接したい。

そして~蛇足だけど、言わずにいられない蛇足の話。
『ザ・ライダー』と同じく、エピローグの後のメッセージが要らん要らん要らなすぎ。
作品の中でしっかり伝わってることをダメ押ししなくていいのよ、ネタの何が面白かったのかを説明してるみたいで粋じゃないよ~。
これからもジャオ監督の作品見るときは、感動すればするほどまた余計なこと言い出すんちゃうかとドキドキしてしまうがな...。

判決の記念日ということで、『シカゴ7裁判 The Trial of the Chicago 7』が明日までYouTubeで無料放映中。
今から頑張って見る...。

ノマドランド (字幕版)

ノマドランド (字幕版)

  • フランシス・マクドーマンド
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原作のルポが面白い。キャンプ場の季節労働に誘うチラシの文句からして「怒りのぶどう」と変わらないのである。

邦訳も注釈豊富で素晴らしかった。

トレーラー。

TIFFのインタビュー、監督のリラックス度がどんどん上がってくのが素敵。こういう感じにカジュアルに足クセわるい人、うちの街には多い。

映画 Minari を家で見た。スティーヴン・ユァン『ミナリ』

聖書の暗喩に富みまくる小さなピルグリム記。
何よりヤコブとダビデが西ではなく東に向かうという...。

ずっと、ばあさんに課せられた役割を考えていた。
罪に「消える」という性質はないのだと。
唯一できる対策と言えば拭い取る、つまり、他の何かに穢れを移すことだけ。

ただ、普通に考えれば彼女のおかげで息子の心臓の孔はふさがれたとも言えるけど、あのひと、教会のお金ごまかしたからね。
それ、聖書では殺人よりも姦淫よりもはるかにまずいやつで、ことごとく一撃で死ぬパターン。

ジェイコブの赤いキャップに心臓バクバクする人も多いと思う。

クライマックスの火事の場面は不完全燃焼だった。
「なんとか形にしてきた小屋」のデザイン演出がよくないのか、家族の動きにウソがあってどうにも歯がゆかった。

ヒナの雌雄鑑別の仕事については、日本でたまたまテレビの取材を見たことがあった。インタビューを受けた若い女性の鑑別士が「手に職をつけたいと思ってこの仕事を選んだ」と答えたのをよく覚えていた。今も人の手が欠かせない仕事で、アメリカでは一時期日系人の従事者が独占状態だったという。なんか分かる...。カンボジア系のドーナツと同じで、たまたま最初にチャンスをつかんだのが日系人だったから、だとは思うが。

アーカンソーといえばクリントンのお膝元というイメージしかないが、去年、州内のある町が「移住者に1万ドル」誘致キャンペーンをしていて、概要を熟読したり町のことを調べたりしてしまった。
そういえば、韓国系の友人のお母さまは実際に南部にお住まいだ。
カリフォルニアのほうが過ごしやすいんじゃないかな~、とか勝手に思っていたが、彼女自身の移民史を伺いたいと改めて思った。

A24のスクリーニングプラットフォームは、自分の名前とメアドの入ったウォーターマークが数秒おきに時計回りに表示される仕様で、ここまでしないといけないんだな~という発見はありつつ、なかなかきついものがあった。
図柄ならまだしも、意味をもって目に入ってくるので。

ミナリ(字幕版)

ミナリ(字幕版)

  • スティーヴン・ユァン
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トレーラー。

ティーチングやQAセッションもオンラインでいろいろ見られたが、子どもたち、特にアラン君がずっと前を向いて話をしていてすごいと思う。
私のまわりの子らはカメラの前で3分も集中できないよ...。