英語あそびなら天使の街

在L.A.言語オタ記。神さまのことば、天から目線の映画鑑賞日記。

半沢直樹における「障害」のパワー

留学体験記の中でも気に入っている、鴻上尚史著『ロンドン・デイズ』を読み返していたら、「半沢直樹がなぜ面白かったか」が分かる箇所があった。
今更だけどメモ。

1年生の授業「演技授業」では、毎週、宿題が出る。
今週は、「目的」と「障害」。
(中略)
面白い演技をするためには、「目的」が明確でなければならない。
例えば、あなたが女性で、目を醒ますと、隣に知らない男性が寝ていたとする。
(中略)
この場合、例えば、「やべっ!このまま、逃げよう」という「目的」を選んだとする。
たぶん、昨日、嫌なことがあって、自暴自棄になって、こんな男と一晩の間違いを起こしてしまったのだろう。一刻も早く、この場所を立ち去りたいという「動機」のために、「やべっ!このまま、逃げよう」という「目的」を選ぶことにする。

ちなみに、「動機」は過去であり、「目的」は未来である。
「動機」を延々と書き続ける小説があるが、ほとんどは面白くならない。
(中略)
話を続けると、「やべっ!このまま、逃げよう」と目的を明確にした時、演技は面白くなる。逃げるために、ドアを探して、窓を探して、と行動が明確になってくる。「目的」が明確になれば、行動も明確になるのだ。

が、このまま逃げられたとしたら、実は、面白さは、大したことはない。
簡単に逃げられた賭したら、面白さはまったくないと言ってもいい。

ここで「障害」という考え方が出てくる。簡単に言えば「じゃまをするもの」である。
こんな障害はどうだろう。
「ドアまで歩こうとしたら、床が古くてキィキィ鳴る」
「そもそも、自分は全裸なので、服を集めないといけない」(中略)など。
どうだろう、いきなり、お話が、つまり演技が面白くなってきたと思わないだろうか。

面白い小説(マンガ・シナリオなど)は、
明確な「目的」と明確な「障害」を持っている。
(中略)
そして、作者や役者のセンスは、どんな「障害」を設定するかという点によく現れる。
つまりは「障害」が、作家として生き残れるかどうかの勝負所となる。

鴻上尚史著『ロンドン・デイズ』

「半沢」では、終身雇用、年功序列の日本企業が、日本人の多くにとって共有されやすい「障害」だった。
あんな苦しい環境に耐え、社内で出世するという「動機」「目的」がウソにならず、「転職すりゃいいじゃん」で済まないのは、見る人誰もが納得できる「障害」があったからだ。

うちのアメリカ人には面白くないのも道理。
日本人に通じなくなる日は10年後、20年後だろうか。

2018.3追記
ついについに、『ロンドン・デイズ』電子版が出てました!(底本は文庫版)
今年書かれた「その後」やラーメンズとの対談もあり最高です。
これで何度目だろう、通して読んでまた得るところ多く、思わず「ありがとう」とつぶやいた。
本文中にも(2018年現在、まだ書いてない)の追記が多々...。