英語あそびなら天使の街

在L.A.言語オタ記。神さまのことば、天から目線の映画鑑賞日記。

映画 Drive-Away Dolls を見た。イーサン・コーエン『ドライブアウェイ・ドールズ』

聞いてたとおりくだらないのだが、いい意味で身の丈を熟知しているのがうかがえるプレゼンテーションで好感をもった。こういうのを等身大というのだろうか。
ベテランのカメオ出演も度量の深さが感じられてすがすがしい。内輪っぽい臭みがない。
イーサン・コーエン若いなぁ。親と同世代だと思うと感心する。

『テルマ&ルイーズ』へのオマージュにもとれる描写がちらほらあったので、これまでに見たマイノリティが主人公のアメリカン・ロードムービーをあれこれ思い返していた。
30年かけて随分遠くまで走ってきたものだ。
明示的に何かに追われることはなくなったけど、赤い州に入るのは身構える、というね...。
個人的には「路上でカーラジオにのって絶唱する」シーンがなかったのがすごくよかったと思う。
They already unleash themselves on their own.

ウチにもひとつ欲しいカッコいい大型立て看

マーガレット・クアリー(オカンに似てきたね)の衣裳が好き。ボートネックと白シャツの着こなしが超かわいい。

平日マチネ、7.5ドルで鑑賞。
半分すぎたあたりでフェローオーディエンス2人が帰ってしまい、150席ひとり占めした泣

劇中、マリアンがはまってる本。

かたやジェイミーがヘンリー・ジェイムズを嫌うきっかけになった作品。

ちなみにチーフが最後に読んだのもジェイムズ作品でした。気の毒に...

トレーラー。

映画 Origin (2023) を見た。エイヴァ・デュヴァーネイ『オリジン』

激動の2020年に大ベストセラーになったIsabel Wilkerson著Casteの執筆譚を下敷きにしたインスピレーションジャーニー。
刺激的だった。あらゆる問題は、言語化・見える化しない限り絶対に解決できない。

日本にもいろいろなカーストがあるよね。
高校時代、定期的に同和教育の時間があった。
友人のひとりは、教えられなければ部落なんか知らなかった、わざわざこんな授業をしないほうが差別はなくなるんじゃないか、と言っていた。
私は即座に「違う」と思ったのだが、なぜ違うのか言葉にできなかった。
この映画の中にはその答えがある。
彼女の意見に対して、いやいやいや、私たちは絶対に知り、記憶しなくちゃいけないんだよ、と明言できる根拠が明快に書かれている。

MAGA帽をかぶった不親切な配管工に対するイザベルのリレーションのしかた、すごくいいなぁ。真似したい。
なかなかあんなふうにはうまくいかないだろうけど。

それから、ひとりだけプールに入れなかった少年に寄り添う祈りもいい。
私も苦しんで泣いている過去の自分のそばにいって"Everything will be alright"と声をかけることがあるけれど、あれを全然知らない人や故人やまだ生まれていない人のために祈るときもやればいいんだな。
明確にイメージして「絶対大丈夫、万事うまくいくよ!」と肩を叩くの。

原案。

トレーラー。

映画 The Zone of Interest を見た。『関心領域』#CeasefireNOW

『ファイナル・アカウント』のナラティブをドラマチックに再現してくれた感じ。

もう20年近く前だが、ダッハウ強制収容所跡を訪れたとき、小学生くらいの子どものグループが石の上に座ってお弁当を広げていて驚愕したのを思い出した。ポーランドを旅行した世界史の先生から、アウシュヴィッツでは空気が異様すぎて嘔吐してしまったと聞いたこともあり、かなりビビっていたのに。
それから、囲われた広大なスペースを享受する日本の米軍住宅地も連想した。

私自身が身につまされるのは当然のこととして(この映画の中でいう犬、赤ちゃんほどに敏感でいるのは不可能だろうが、せめて「外から訪ねてきた人」と同じくらいにはwrongnessを自覚し、行動に移せる状態でいるには日頃どうすべきなのか)、西側様、白人様におかれましては、壁の向こうにいるのがPOCであっても同じ問題意識を発動してほしいと願わずにはいられない。

ルドルフの頭頂部がちょいちょいキッパに見えるのはわざとか。

【3/10/2024追記】
みごとにアカデミー国際長編映画賞を受賞したわけだけど、皮肉にも今回の式典は白人様の関心領域においてアジア系は人間として存在していないことをわっかりやすっっく浮かび上がらせたおぞましい見せ物になった。dehumanizationってああいうこと。キー・ホイ・クァン、ミシェル・ヨーに対するダウニーJr.、E・ストーン、J・ローレンスの仕打ちにかなりダメージを受けている。

原作小説。

トレーラー。

映画 All of Us Strangers (2023) を見た。アンドリュー・ヘイ『異人たち』

夢現の意識の流れを描いた作品としては、これまで見た中で段違いに良かった。
ポール・メスカルに負うところがすごく大きい。あの終始コントロールの効いた呼吸。『アフターサン』の若い父親役のイメージを重ねてしまったせいでよけいに良く見えたのかも、と言ったら失礼かな。

シンボリズムとリアルのえぐみが共存するプロダクションデザインが白眉。

昨年末に他界した山田太一の小説『異人たちとの夏』の骨組みを借りた物語だが、中野翠あたりが「なぜ同性愛なのか」とか言い出しませんように。

平日マチネ、14ドルで鑑賞。

1988年の大林宣彦作品と見比べると、ふたつの世界の行き来を見せるギミックの違いが面白い。
大林版は花やしきのお化け屋敷のようだが、『異人たち』は超現象を直に描写しないことで洗練されて見える。
たとえば、
<両親との別れ>
今半で「3名様」を通した中居さんを人払いしたあと、西日がさす中、両親は文字通り消えていく。
VS.
ダイナーでファミリーミールを注文、「多いですよ」とサーバーに言われる。ひとりぼっちの主人公の卓上には3つのドリンクだけが残される。
<生気を抜かれていく主人公>
白髪1本から始まって急に目の周りが黒くなり、最後は本人とわからない特殊老人メイクで現世の人々に心配される。
VS.
熱や咳が出てきてきて亡霊たちに気遣われる。
<恋人の種明かし>
えっれえことになる。
VS.
遺体の一部が写るだけ、あとは寄り添って静かに眠りに落ちる。

トレーラー。

メスカルの今回の役作りのニュアンスについては心理学徒でもあるポートマンがうまいこと言葉にしてくれてます。

映画 American Fiction を見た。トロント国際映画祭観客賞『アメリカン・フィクション』

面白かった。最近見た作品の中では久しぶりに時間を忘れた。

『ブラック・クランズマン』『ゲット・アウト』『ホワイト・ボイス』にも描かれた、アメリカ社会の入れ子構造の差別を切って見せてくれるのだが、本筋よりもブラックPhDファミリーの描写のほうに惹かれた。
さりげないセリフで家族の過去を想像させるロレイン、THIS IS USのランダル演じるクリフが超いい。

個人的な趣味だが、エージェントや出版人の羽目の外し方はもう少し抑え目で見たかった。タイトル変更のあたりなどはやり過ぎてリズムが崩れたと思う。

「黒人役」の横ピースからスタジオを引きで見せるラストがしゃれすぎ。

近くの座席のおじいさんが、視力のせいか、読む速度が追いつかないのか、スマホのテキスト、著書献本のカードが写ったときにWhat's that said?と尋ねていた。どちらも見逃しても問題ない内容だったし、映画はだいたい重要情報を文字に依存しない作りになってると思うけど、劇場でそういうブロックを経験する人もいることを知った。

平日14ドルで鑑賞。

原作。

トレーラー。