英語あそびなら天使の街

在L.A.言語オタ記。神さまのことば、天から目線の映画鑑賞日記。

映画 Emily the Criminal を見た。『エミリー・ザ・クリミナル』

大変面白かった。
久しぶりに劇場で拍手が起こるのを聞いた。

冒頭、オーブリーの小鼻芸で一気につかまれ、シュールなエンディングまでもう「知ってる」風景ばかりで...。
エミリーもユセフもすぐ隣りにいるんだよね。

モチーフになっているのがどう見ても割に合わないセコい犯罪なのがいい。
銃もドラッグも出てこないのがいい。威嚇に使うのはカッターとペッパースプレーであり、ナイフですらないのだ。

もう10年前になるが、当時郵送していたのを盗まれたのだろう、小切手を不正使用されそうになったことはある。
ニセ小切手の振り出しが検知され、即刻口座が凍結されたので(グッジョブ)、銀行の手続きの面倒はあったものの、未遂に終わった。
後で警察に聞いたところによると、容疑者は私の小切手を偽造してベビーシッターに600ドルを払おうとしてお縄になったんだそうだ。
なんだか気の毒になってしまった。

エミリーは絵が描けるし、2カ国語できるし、雇われにこだわらなければバックグラウンドチェックなしでできる高給の仕事、あったんじゃないかなー。
朱に交わること&金銭感覚を破壊されることに圧倒的な影響があるのは当然ながら、明日も不安なほどの極貧ではなく、「階層」の異なる友人を含めたコミュニティを持っているので、自分の状態をもっと相対化して見られそうだけど。
それもひっくるめてのあの選択ということか。

上映前、2019年にリサーチ・スクリーニングで見た映画の予告が出た。
劇場公開を大幅に延期したのは007やトップガンみたいなブロックバスターだけではないのですね。

【10/9/2022追記】
小切手詐欺で被害5千万ドル、50人以上が逮捕されたという記事が地域メディアに出ていた。
エミリーたちが関与したように、私がやられたようにニセモノを作るのではなく、郵便から盗んだ小切手を受け子に作らせた口座に入金するとかで、それならできそう〜と思ってしまった。10年前とは違い、アプリで画像撮影してデポジットできるようになってるし。いたちごっこだな。

【1/18/2023追記】おお、こんな記事が。同意同意。
Aubrey Plaza Was Proud There Are No Guns in ‘Emily the Criminal’

トレーラー。

映画 The Princess (2022) を見た。HBOドキュメンタリーがとらえたダイアナ妃現象『プリンセス・ダイアナ』

これまでダイアナ妃や英国王室に材を取ったフィクションをいろいろ見てきた。
The Crown、The Queen、Spencer...
比べられるものではないが、そのどれよりもはるかに面白かった。

夫妻の姿だけでなく、「そのとき」の一般市民の様子が多数盛り込まれ(スマホなき時代なので貴重)、彼女の悲劇を作り上げたのは無邪気な庶民のenablerだったのだなと思わせる構成。

米国での記者会見時のダイアナ、棺を見送る息子2人の表情が夢に出そうなくらい印象的だった。
切り取り(編集)の妙とはいえ、まぎれもない真実の瞬間。

祖国の元首相のなぜか自衛隊まで動員した公私混同葬儀映像を見た後では、棺のパレードはごく素朴で彼女らしいとすら思うのだった。
車の天井やフロントガラスに積もって行く花束がまた...。

顛末を知っているからかもしれないが、今、彼女の20代前後のカメラの前の上目遣いを見ると怖いし不安になる。

子どもの運動会の保護者レースで走るダイアナの映像、初めて見てなんだか胸を打たれた。
ものすごい本気走りで。
その後でハリーを抱きしめる姿も。ハリー、お母さんが大好きなのね。

結論、人間皆平等の建前と矛盾する制度、良くない。
聖書で言うところの「王」、つまりリーダーは必要。でも生まれで富と名誉が偏る体制は、長い目で見て誰も幸せにならない。

ある州で、貧しい者がしいたげられ、権利と正義がかすめられるのを見ても、そのことに驚いてはならない。その上役には、それを見張るもうひとりの上役がおり、彼らよりももっと高い者たちもいる。
何にもまして、国の利益は農地を耕させる王である。(伝道者の書 5:8、9)

王子誕生のニュースを門の外で待ち構える報道陣にイチゴとクリームがふるまわれるの、おしゃれすぎる。食べにくそう。

トレーラー。

映画 I Love My Dad を見た。ジェームズ・モロシーニの『アイ・ラブ・マイ・ダッド』

South by Southwestで好評を博したコメディ。
面白かった。好き。

21世紀のミセス・ダウトは物理的な制約が少なく、妄想をいくらでもかき立てられるので危険度が高い...。
テキストの向こうの人物の表現、The Girl From Plainvilleも似たようなことをしていたが、実際のできごとなのか、テキスト上の会話なのかが分かりにくかった(もはやどっちでも変わりはない、当時者も混乱しているんだと言えば確かにそうなのだが)。
他方、本作では一度も会ったことがない設定なのではるかに成功していたと思う。

真実が明らかになるシーンはもちろんフランクリンには気の毒ではあったが、接客業務中に割り込んでしつこく話しかける感じ、よく女性主体のビジネスの場で問題になってる勘違いオヤジやん。
たとえレベッカが本物でも一気に冷めたと思うぞ。

車のチェックエンジンの伏線が回収されなかったが、何かカットされたのだろうか。
いつ車が動かなくなるんだろう...と思っていたのだが。

前の席に中年の女性と杖をついた高齢の男性の2人連れが座った。
映画が始まると、女性が慣れた手つきで大きなブランケットを2人の膝の上に広げた。男性もケアされて当然みたいな態度をとらず、thank youと言ってブランケットを肩まで引っ張り上げていた。親子かな。愛だったわ。

トレーラー。

マタイ効果 (シリーズ献金 その21)

直接献金は関係ないのだが、

おおよそ、持っている人は与えられて、いよいよ豊かになるが、持っていない人は、持っているものまでも取り上げられるであろう。(マタイ25:29)

を地でいきすぎで、問題に感じたことがあったのでメモしておく。

先日5年ぶりくらいに新しいクレジットカードを作った。
普段一番使っているカードの銀行から、キャッシュバックの率がよく、3カ月以内に$500使えば$200くれるというオファーがきて、何も失うものがないので乗ったのだ。

$500なぞ、通常の生活費で簡単に到達する。
そして1ヵ月たたないうちにほんとに$200が振り込まれた。

これってどうなのか。

この$200がどこから来ているかといえば、カードで借金をしている人が払った利子である。
私はカードを使ったら耳を揃えて期限までに返しているので利子はゼロだし、クレジットスコアも高くなって、こういう有利なカードのオファーが来る。

私も利子を払う側だった時代がある。
2017年まではカードの借金があって、毎月ついていた利子を記録していた。
今、完済後5年たって、毎月キャッシュバックでもらっている額の総額がようやく過去に払った利子の総額を超えたところだ。

ごくミクロのしょぼい話ではあるが、それでも「持っているものまでも取り上げられ」た時を経て「持っている人は与えられて、いよいよ豊かになる」側になってみて、このカード商売のシステムが良いとは決して思えない。
こんなに簡単に$200がもらえるの、おかしいもの。

<3/2023追記>
NYTに、まさに持たざる者から持つ者に富が流れるクレジットカードのリワードの構造を説明したオピニオンが出ていた。
金持ちに与えられるリワードの原資はカードで借金をした人のみならず、手数料として全商品に上乗せされ、比較的カードを使わない低収入層の負担ばかりが膨らむという恐ろしい話。
The Dirty Little Secret of Credit Card Rewards Programs

映画 Nope を見た。ジョーダン・ピール『NOPE/ノープ』

信頼するレビュワーたちが揃って「悪くはないけど、監督の過去の秀作(Get OutUs)に比べると...」と言葉を濁す。
確かに1度見ただけで鮮明にキーのせりふを(ルピタ・ニョンゴの"We are Americans"!)、恐怖の感情を記憶している2作に比べると、とっ散らかっている印象。
映像に魂を売ったホルストのように、ピール監督も趣味に走って好きに撮ったんだと思う。
"deserve impossible"と言えるのは売れっ子だけだから、アートにとってとても良いこと。

前作から社会派ホラーを期待して「お、今回はドーブツの復讐か?」と思った私は安易すぎた。

「現れる」ときの数々のシンボル、サウンドエフェクトが最高。

エンジェル君を生かしておいてくれたのは嬉しかった。
彼は妙に意味深なキャラクターで、鉄条網にからまれている姿なんかFirst Reformedでも見た殉教者そのもの。
それから、いきなりホルストのアシになって卓上暗室でフィルムを取り替えているところに個人的な思い出を喚起させられたので。

Usではエレミヤ書が織り込まれていたが、今回はナホム書がエピグラフ。

わたしはあなたに汚物をかけ、あなたをはずかしめ、あなたを見せものとする。(ナホム書3:6)

さて、この映画における「わたし」とは、「あなた」とは。

NOPE/ノープ(字幕版)

NOPE/ノープ(字幕版)

  • ダニエル・カルーヤ
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