英語あそびなら天使の街

在L.A.言語オタ記。神さまのことば、天から目線の映画鑑賞日記。

映画 Paris, 13th District / Les Olympiades を見た。『パリ13区』

まあまあ面白かった。
ただ、これがたとえばシカゴが舞台で全編英語だったら不思議と退屈になったと思う。
パリ13区である必然性は言語だけ。実に魅力的なヴォイスだった。フランス語を勉強するときには教材に使いたい。

私にとってフランス映画の特徴といえば登場人物がナチュラルに裸体になること。
ハリウッドだったら肩に力が入るところ。
そこに搾取は感じないし、米国とは全然異なる作り方をしているのだろう。
俳優のスタンスも違うのだと思う。
でも、MeTooのときにカトリーヌ・ドヌーヴがかなり頓珍漢な発言をしていたことを考えると、高度に洗脳されているだけではという気もする。

ラストの静物のカットはおしゃれでしたねえ。見事に凹凸が合わさっていて。
初めてうちになめらかなボディのプッシュホン式電話機がきたとき(私はジーコジーコの黒電話を知っている世代)、なんだか受話器をエロチックに感じたのを思いだした。

ところでアダルトカムサイトってあんなにいちいちカード情報を入力させるものなの?
時間切れになりそうなところで慌ててバッグをごそごそするのに違和感を感じた。

トレーラー。

制作現場の搾取がにじみ出ている映画

暴力やハラスメントを許す環境で作られた作品は見ればわかる、という話がある。
映画は監督のメディアなのだから当然と言えば当然だろう。
いくつか、鑑賞中に「現場で搾取が行われてそう」と感じた作品を思いだしたのでメモしておく。後で追加する。

『ダンサー・イン・ザ・ダーク』『奇跡の海』
どちらも主演俳優が必要以上に痛めつけられたのでは?と思わせる雰囲気あり。
後にビョークがトリアー監督の名前は挙げずに撮影のつらかった経験を語っている。

『レオン』『WASABI』
俳優に合意がとれていないところがありそう。それでも特に『レオン』は友人たちが超評価しててヤーな気分に。

『愛のむきだし』
ほんとうに気持ち悪い3時間だった。
LAでの上映は日数が少なかったこともあってか、満席だった。連れがいたので途中退席できなかった。

『氷の微笑』
後にシャロン・ストーンが合意していない撮影内容があったと告白していたが、何も知らない一観客としてはジーン・トリプルホーンのほうが演技をかぶった向こう側で傷つけられているように見えていたたまれなかった。

ドラマ The Affair『アフェア 情事の行方』
『氷の微笑』のトリプルホーンと同じく、ルース・ウィルソンがvulnerableに見える。役柄のせいもあるかもしれない。

映画 Cow を見た。アンドレア・アーノルド『カウ』

あの『アメリカン・ハニー』を撮ったアンドレア・アーノルド監督が乳牛の生涯を追ったドキュメンタリー。

各所で配信しているが、イースター前の断食中でもあり、これは家では集中できないやつ、と思って劇場で瞑想してきた。

出産時、人間3人がかりで子牛を引っ張り出しているのを見ると、家畜でなかった頃はあの体型でどうしていたのだろうと思う。

ときどき不意に不思議の念に打たれるのだが、今でも人間が人間を体内で培養して生むのってすごくドーブツっぽくて「なんで?」と思う。いや、実際ドーブツなんだけどさ、生殖技術って発展のしかたが妙じゃない?もっと人工子宮にリソースが集結してもいいような気がする。

監督はこの映画は生命のプレゼンテーションであって、ヴィーガンメディアにしたくないと言っている。
Andrea Arnold on Capturing Cow, Bovine Beauty, and the Brutality of Nature
だが、やはりそのあたりを考えないわけにはいかない内容だった。
(先日、トレジョでボバ入りアイスを買ったつもりが、帰って見たらヴィーガンアイスだった。その味気ないことといったら)

牛が馬みたいに走るところを初めてみた。

冒頭、カメラ目線でブオブオ言ってる牛が誰かに似てると思ったらあれだ。
便秘気味で涙をこぼしながらウンチをしてた1歳のときの姪だ。

トレーラー。

映画 Everything Everywhere All at Once を見た。『エブリシング・エブリホウェアー・オール・アット・ワンス』

レジェンド、ミシェル・ヨーとジョナサン・キー(ショート・ラウンド!)の粘り強いキャリアを寿ぎに。

作品は苦痛に近いほど苦手なやつだった。
「2 Everywhere」とキャプションが出たとき、え......まだ......半分......と軽く絶望した。

これを楽しめるほど私の頭は柔らかくなかった。
観客席はまあまあ沸いていたよ。

小学校で大人気だったショート・ラウンド、今でも素敵と思いたい!素敵でいてくれ!という自分勝手な願望を持って見たが、残念ながらそれはなかなか難しかった。

面白がれなかった一観客としては、「あれ、これってもしかしてくだらない...?」というトカトントンのささやきにめげず完成にこぎつけたプロダクションはすごい忍耐力だと思ってしまう。
こういう映画にちゃんと予算が集まるのは素晴らしい。

【5/2022追記】The LandmarkのPicoロケーションがなんと5月末をもってひっそり閉館。私にとってはこの映画が最後になってしまった。大変悲しい。上映作品を間違えられたり、ふらっと行って監督のティーチインに参加できたり。満員のEighth Gradeの観客席の一体感も忘れがたい。アートハウス系には痛手だと思う。

【6/2022追記】 A24の最大のヒット作になったとのこと。近所でもまだ上映が続いている。絶賛する人からどういうところがいいのかを聞くとあまりにも同意できなくて非常に面白い。

ミシェルが演じてきた役をセルフ解説。私が大好きな『グリーン・デスティニー』はpoetry of motionだって。まさに。"We always say, there is no action without drama. It goes in hand in hand."

ショート・ラウンド、自民党議員の装着率が異常に高い系のブレスレットつけてる...。

トレーラー。

映画 Nitram を見た。『ニトラム/NITRAM』

豪州史を動かしたタスマニア島のマスシューティング、ポート・アーサー事件の犯人のある人物像。
秀作。初めて見る俳優さんばかりだったが(たぶん)、全員素晴らしかった。

彼のような「無敵の人」をどう包摂すべきなのかは分からない。フロリダの事件の犯人も、家で手がつけられなくなって養母が絶縁したいと相談してたらしい。社会が被害を減らすためにできる明確な策があるとしたら最低でも牙を抜いておくことしかないのではないか。米国だったらもうずーっと前から言ってるようにセミオートの武器はパンピーに持たせない、バックグラウンドチェックの強化。核兵器はつくらない。生物兵器もつくらない。

だから、以前、ブルームバーグの記事でこの事件を機に一気に進んだ豪州の刀狩りについて知ったときは、米国と違ってさすがのリーダーシップだなーと感心したのだが、現在の規制の現状はどの州もゆるゆる、事件が起きた1996年よりも銃の数が増えているという事実はエピローグで初めて知った。こんな残念なことあるか。

しかも現在は、世界一の「無敵の人」が人類を滅亡させる武器を握っている状況だ。
不条理な破滅の根っこはすべてtoxic masculinityじゃんとムカついている今日この頃である。

ところで、あの人は今、何億人もの人に呪われていると思うのだけど、効かないもんだね。
同じくらい、善意の人たちが、呪うかわりに「どうか人間になってくれ、神のみこころのとおりになるように」と祈っているはずなので、霊の世界で引き合いでも起きているのだろうか。
祈りが必ず働くように、呪いも集中するとただでは済まないように思うのだが。

ニトラム/NITRAM(字幕版)

ニトラム/NITRAM(字幕版)

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トレーラー。