英語あそびなら天使の街

在L.A.言語オタ記。神さまのことば、天から目線の映画鑑賞日記。

映画 Just Mercy (2019) を見た。『黒い司法 0%からの奇跡』←orz

ロースクールに限らず全米の大学で課題図書として最も多く取り上げられているという Just Mercy: A Story of Justice and Redemption
大坂選手と同じく、『ブラックパンサー』で「あの魅力的な悪役は誰?」と注目し始めたマイケル・B・ジョーダンが弁護士を演じるのも見逃せません(彼はインクルージョン・ライダーにもいちはやく賛同を示していました)。

黒い司法 0%からの奇跡(字幕版)

黒い司法 0%からの奇跡(字幕版)

  • マイケル・B・ジョーダン
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司法における人種差別と死刑の問題が絡み合う物語だが、この映画では死刑の実態を強調。
『クレメンシー』に続き、1週間のうちにアメリカの死刑の変遷を見守ることになろうとは。
本作で提示されたのは電気椅子の時代。アラバマではこんな最近まで『グリーンマイル』の手法が行われていたのである。

9人に1人が不正に処刑されている可能性ありとのこと。
まだ長い長い道のりだけれど、Equal Justice Initiativeの弁護士たちの笑顔に励まされた。
ただ、アメリカの正義ってプロボノに頼りすぎてるよなあと思う。
ブライアンみたいな法学生が大勢いるのは事実だし頼もしいことだけど、それを持ち上げた「いい話」も多すぎる。

民主主義の実践として普通のこととはいえ、重要な証言がアーカイブスの中から見つかるなど、記録採取と保管が徹底している点で、まだアメリカには救いがあると思うのだった。
最近もボーイングの中の人たちが、問題の機種について、内輪では「家族は乗せない」などと話していたことが明らかになったが、それも全部記録されていて、公開されるのがすごくない?と改めて瞠目させられた(繰り返しになるが、法治国家では当然のこと)。
もちろん、これが尋常じゃないシステムに思えてしまったのは、日本の文書シュレッダーかけまくり、白塗り黒塗りしまくり、記録やめまくり、の現状が危険過ぎるからです。闘いましょう。

メモ、チャップマンがテレビでウソをつくのを見たお連れ合いの表情にめちゃ笑った。彼女はそのワンシーンの出演だったと思うけど良い仕事だった。

劇場を出るとき、食い気味に入場してきた次回の観客に向かって前の席にいたおばあさんが"This is a good movie"と声をかけていた。
入口でネタをばらしてしまうもぎりのCM ↓ 思い出してドキドキした。そういう心配はない映画だけど。

『黒い司法』のタイトルで原作の邦訳が出ていることをはじめて知ったんですが...
なんかもう別の作品みたい。
映画邦題にしても全然外している感じが。正義は奇跡であってはならないし。

ぜひ原書で。

トレーラー。

ブライアンを紹介しようとして声をつまらせるデスティン・ダニエル・クレットン監督。TIFFで。

マイケル・ミーツ・ブライアン。あからさまな差別や蔑視を受けつつ、30年も闘い続け、笑顔を見せられる不屈の精神。
私なんか20年前に受けた人種差別で今でもクヨクヨすることがあるのに。せめて寄付するわ。

映画 1917 (2019) を見た。サム・メンデス監督 『1917 命をかけた伝令』

公開から日がたつのに、1人占めしたこともあるようなマチネ$6の郊外の映画館が満員だった。
ゴールデングローブ賞とったらしいし見とくか、と思った人が多いのかな、私みたいに...。

そりゃ戦争を生き延びても無傷では済まないよな、あとの人生も地獄だよな、ということはよく分かった。
今どきは殺傷もきれいな部屋でボタン押すだけだったりするから、むしろいいのか悪いのか。

脚本は良くない。
とりわけランスが死んでからは、ある兵士の1日という縛りのせいで、思い付きをせっせと羅列したような、とりあえず短時間に諸々詰め込んでみました、みたいな様相に。
フランス人女性と赤ちゃんに出会う、川流れにあう、兵士の歌になごむ、とかのシーケンスは特につくりものじみて陳腐。
ミルクを届けるメタファーも、分かるけれど唐突だ。
ひとつひとつは悪くないのかもしれないけど、1日に次々起こりましたと言われるとハイハイとは受け取れません。

古いけど、『ポニョ』の水上で出会ったお母さんにスープをあげるシーンの違和感を思い出したな。
ヘルメットなしであれだけ着弾の中をダッシュしきれるのもねえ...。
むろん非常時だし、そんな劇的な1日はありえん、とは言わないけれど。

プロダクションデザインは素晴らしかった。ドキュメンタリー『彼らは生きていた ゼイ・シャル・ノット・グロウ・オールド』で見たのと変わらない塹壕や遺体の山。

1/13追記、
1日縛りのせいで台無しやんと書いたが、考えてみれば、最近よかった『クイーン&スリム』など、多くのロードムービーをはじめとする短いタイムフレームの物語でも人工的だとは感じない作品はたくさんある。
その差はどこから生じるのか考えてみよう...。
ところでアカデミーオリジナル脚本賞にノミネートされましたねえ...。今回のノミニーの中では『パラサイト』『マリッジ・ストーリー』にあげてほしいかな。

トレーラー。

映画 Clemency (2019) を見た。アルフレ・ウッダード 『クレメンシー 恩赦』

私は19歳のときにアムネスティの活動に参加して以来、死刑制度に反対である。

一昨年、日本で新興宗教の関係者が一挙に処刑され、指示を出した閣僚がその夜に飲み会で盛り上がっていたという報道を読んだ。
心底おぞましいと思った。

この映画を見て、囚人だけでなく、その仕事をしなければならない人の人権を守るためにも、死刑はダメ絶対、と改めて。
同列にするのは適切ではないけれど、1人の人権を守るためには皇室は廃止したほうがいいと考える論理と同じ。

そして、今年こそ人権について学ぼうと決意。
3年前に、ドイツの子どもたちは全員学ぶという"Menschenrechte: Dokumente und Deklarationen (PDF)"をダウンロードしたまま放置しているので...。

子どもの頃、何の話の流れだったのか、「死刑囚の病気をわざわざ治療するの何で?」と聞いたことがあった。
母は「公平じゃないから」と言い、一応納得はした。
でも、天賦の性質であってもかくも「習わないと分からない」ものなのだ。

バーナディンはなぜこの職業を選んだのだろうな。

チャプレンの最後の励まし。

わたしは確信する。死も生も、天使も支配者も、現在のものも将来のものも、力あるものも、高いものも深いものも、その他どんな被造物も、わたしたちの主キリスト・イエスにおける神の愛から、わたしたちを引き離すことはできないのである。(ローマ 8:38, 39)

アンソニーの死の時刻は午後11時23分。そこに個人的に感じるところがあった。
監督に何か意図があったとは思わないけれど...。

皇室といえば、この記事を読んで「イギリスの偽善者たち、ざまあ見さらせ~」と思ったわ。メーガン&ハリー、めちゃ応援。
Black Britons Know Why Meghan Markle Wants Out

トレーラー。

中の人たちが大笑いしててホッとする、うう。よかった、みんな元気そう...。

映画 Uncut Gems (2019) を見た。アダム・サンドラー『アンカット・ダイヤモンド』

信頼する人が秀作だと褒めるので見に行った。

ひどくサタン的な空気の充満する作品。
ジワジワと言葉の暴力の毒が回ってきて、最後には自分まで悪態をつきたくなるような。
霊的に弱っている人にはおすすめしない。
2時間に吐き出されるFワードを数えたら千を超えるのではないか。

全く縁のない世界なので面白くはあるが、なんとガラの悪いことよ...。
もうほんと、ろくでなし系の怒声の応酬は耐えられない。

それでいてこの主人公(アダム・サンドラー)にはまともな子どもたちがいて、ユダヤ教もプラクティスしていて...となんというか多面で信じがたい人物なのだ。
こんな口の汚いお父さんイヤや。
お連れ合い(ドスコイ系妻がはまっているエルサ。ディズニーはキャラクターの年齢に近い人を起用するイメージがあったのでもっと若い人だと思っていた)の苦労がしのばれる。

子どもに隣家のトイレを借りさせる場面で、その手の件の不快感を思い出してしまった。
引っ越し屋さんにトイレ貸してと言われ、退出する家だったこともありOKしたら後で便座が上がっていてイラーーーっと頭に血が上ったとか。
日本の会社に勤めていたとき、いつも客先でトイレを借りる上司を恥ずかしく思っていたこととか。
いや、私だっていつか切羽詰まることがあるはずだし、さばいてはいけないのですが。

本作はNetflixで1月31日全世界公開です。繰り返しますが、閲覧注意...。

トレーラー。

映画 Hidden Life (2019) を見た。『名もなき生涯』Trotzdem Ja zum Leben sagen.

家族から国家まで選べない共同体に生まれ落ちるにとどまらず、1人では生きられないようにプログラムされた人間というものの皮肉を思う。

フランツとフランツィスカも、あのように揃って神のほうを向いて、2人だけで生きていけるならよかったのに。
神はそれを許さなかった。

神は人の集まるところに臨在すると約束されている。イエスなんか、教会がからだだと言っている(つまり、「人と交わらないキリスト者」はいない)。

人がひとりでいるのは良くない。(創世記2:18)

あなたがたのうち二人が地上で心を一つにして求めるなら、わたしの天の父はそれをかなえてくださる。二人または三人がわたしの名によって集まるところには、わたしもその中にいるのである。(マタイ18:19、20)

良心を貫こうとすると、共同体に生きる人間の場合、結局連座制になってしまうのがつらいところ。
自分だけでなく家族や大事な人たちが権利を奪われたり、近い人たちから圧迫を受けたりしてしまう。
いま、この国や日本で徴兵が行われたらどうなるかな、と想像する。
周囲にいる人たちがさっさと応じるようには思えないけれど、本作の状況のように教会の兄弟姉妹含めて全員行っちゃったら、私も従ってしまうわ、きっと。

最後のエリオットの引用は良かった。
ほんとに世界はunsung heroesに負っているのだと実感するから。
死刑を宣告されたフランツは誰かの倒れた傘を元通りにした。
神でさえ、ひとつの街を滅ぼす前に、信頼する人間に相談して相当の譲歩さえしたのだから。
今この瞬間も、たぶん誰か知らない人(故人かもしれない)の祈りに支えられているのだ。

私はフランツィスカの祈りをマネしたい。
「あなたは私が愛する以上に彼を愛しています。どうか彼に勇気と知恵と力を与えてください」

ところで、生存戦略として農家は最強だなぁ。
今の人たちがどれだけ「つぶしのきくスキル」「どこでも食える職業」「需要=給与の高い人気職」とか言ったって、社会が壊れ、金銭の価値がなくなったら即食えなくなる。農家の人たちと物々交換するしかないが、彼らも毎日医療やヘアカットが必要なわけないし。

それから、ナチのシステムのアンバランスさが気になった。一応裁判をしたり、囚人にも外の空気を吸ったり、手紙書いたりする自由はあったりして、へんなところで人権配慮にコストをかけてるように見えるのよ...。

トレーラー。