英語あそびなら天使の街

在L.A.言語オタ記。神さまのことば、天から目線の映画鑑賞日記。

映画 Leave No Trace を見た。それでもやっぱり生きていこう『足跡はかき消して』

ザッツ・ポートランド。冷たい雨と常に芯深くまでじっとり湿った森林と、素敵なカルチャーを湛えているけれど絶対1人では行きたくない(さみしくなるから)ダウンタウンと。

自然に身を隠す人間たちを確かなデッサン力で描き切った異色の佳編。

私の頭の中をループしていたのは、Thank you for your serviceで得たニワカ知識、「PTSDって一生治らないんだってよ...」

今回、ツレが「彼が帰還兵なのは分かったけど、結局なんでああいう暮らしになって何がトラブルなのかは分からずじまいだったね」とのたまったので、「父娘の苦しみ、悲しみを知るのに、そんなディテール1個もいらんかったやろ!」と憤怒。

いや本当に今のstateだけで十分だった。
トム(トーマシン・マッケンジー、硬質の正気とアイスブルーの目はこの映画のgem)が「あれこれ質問されるのはもうイヤ、外の人を呼ばないで」と懇願するのもよーーーーく理解できた。

彼女が農場で会った少年と母親の話になって、「彼女はまだ生きている?」と聞くところなど、うまい筆運びだと思う。
普段の生活のあり方ゆえに出てくる、ティーンにしては妙な、そしてリアルなセリフ。

ウィル(ベン・フォスター)はどうして自殺しないのだろう、何が彼を無理に生かし続けるのだろう、と考えた。
もはや娘のためではないのは確かだ。
誰に愛されようとも、何が引き止めようとも、死ぬしか生きる方法がない人はどうしたって逝ってしまうから。

彼自身、分からないのかもしれないな。とにかく生きていないといけない、という切羽詰まった欲求だけはあるという...。

ついにまた元のトラックに戻ろうとした時のトムの決断はむしろさわやかで、畢竟それしかない、と思わせた。
そこには、悲しいけど平安と、微かながら希望もあった。

<余談 1>
結局のところ公園に住んでおり、本気で野生化できないのがこの父娘の悲しさだ。
つまり、leave traceしまくっている。
やる気あんのか。
現金の入手経路を持ち、スーパーで食品を買い、電気も使う。
手足は適度に汚してあるが、セーターが妙にキレイ。結構フロに入ってそうにも見える。
ピンチの時は意外と近くで他人に助けられる...
父さん1人になっても変わらないかもね。

<余談 2>
ソーシャルワーカーの仕事や、ボランティア一般人の描かれ方はとても興味深く見られる。
機械的な検査質問が続く中、カウンセラーが Are you proud of your daughter? と生身の問いかけをしたときのお父さんのゆるんだ笑顔は本物で、心動かされた。
これを「アイスブレーカー」と呼ぶのだな、と思った。

<余談 3>
父娘の目を通してコンテンポラリー教会を見るとその神の奉仕者としての「使えなさ」がありありと身に迫って恥ずかしくなった。
実際、あーやって布キレ振り回して踊る教会あるんですよ、オレンジカウンティとかに。
喜びがあるのはいいんです。でも、賛美は下手じゃダメなの。神の要求は高いんだよ。

新しい歌を主に向かって歌え。
喜びの叫びとともに、巧みに弦をかき鳴らせ。(詩篇33:3)

Sing to him a new song; play skillfully, and shout for joy. (NIV)

牧師もコミットメントが感じられなかったしね。
礼拝に行かされた父娘が救われなくて残念です。

トレーラー。

原作小説。宣伝美術もいいですよね。