英語あそびなら天使の街

在L.A.言語オタ記。神さまのことば、天から目線の映画鑑賞日記。

映画 Boy Erased を見た。あるコンバージョン・セラピーについて『ある少年の告白』

Beautiful Boyと同様、啓発映像。

市内の教会の2人の牧師から、AB2943に反対するよう議員に働きかけよう、というメールが届いたのは4月のことである。
Many of you have heard...と書かれていたが、いや聞いてへんし、と思って調べたところ、カリフォルニアで大人を対象とした有償のコンバージョン・プログラムを禁ずる法案が審議されていることを初めて知ったのだった。
個人的にはその動きについてよりも、どれほど自由な雰囲気の教会の牧師先生でも、一応は「ゲイは治る」という認識なのか、ということに驚いた。

結果としてその法案が取り下げになったのはよかった。さすがに言論の自由に抵触すると思うし。
キリスト教の団体が、「議員は私たちの話に真摯に耳を傾けてくれた」と謝辞を出していたのにも安堵した。
ちなみに、マイナー(未成年)に通わせることは禁止です。念のため。当然!!
でもそれも全米半分の州に限られ、カリフォルニアでも2012年にやっと制定されたこと。
それまでには本編に出てくる少年少女のような多数の犠牲が積み重なっているはずだ。

この映画に描かれるセラピーを見ると、「神様やジーザスの名前を使わないで」と思わざるを得ない。
あまり聖書を知らない人が見て、「だからキリスト教ってやつは」と誤解されるのが一番かなしい。
基本として、人が人をさばくのをジーザスは良しとしていません。決して。
「罪をおかしたことのない人から石を投げなさい」の話のとおり。

同性愛についてジーザスは何も言っていないけれど、神は「男色はダメ」と何度も明言しています。
でも、隣人のLGBTQの存在が罪で「矯正すべき」とは思えない。神様ってできないことをやれと言うような方じゃないし。
それでも愚かな人間を救おうとジーザスを送ってくれたんです。

本当に神のこころに沿わないことって、神に近づくにつれ、気づいたら止めてると思う。
ずっと軽〜い話だけど、私の場合は救われてから、私を傷つける男、SNS、アルコール、エロマンガから自然と離れた。
人から何も言われなくても近寄りたくなくなった。

自分、神の宮だし、ジーザスと兄弟だし。めっちゃ自分大事にしなきゃ!と思うとね。

わたしの目には、あなたは高価で尊い。わたしはあなたを愛している。(イザヤ43:4)

LGBTQ、に限らず、私たちすべての罪びとに対する神様の視線は、本編のニコール・キッドマンの視線に近いんじゃないかと思った。

強烈なゆるしと忍耐の眼差し。

開演前に、同じくルーカス君主演の同じく親子邂逅もの(ママはジュリア・ロバーツ)のBen is backの予告が流れたのは妙だった。
ちなみに私はその作品を楽しみにしている。タイトルからしてビブリカルじゃないですか!

ある少年の告白 (字幕版)

ある少年の告白 (字幕版)

  • ルーカス・ヘッジズ
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原作。サバイブして36歳になった彼は、夫と共にNYに暮らしている。宣教師のお父さんとも仲良さげ。

トレーラー。

ニコールがルーカスに注ぐあたたかい眼差し。

TIFFには原作のConley親子も登場!お母さんめっちゃ嬉し泣きしてるし。

映画 The Hate U Give を見た。『ヘイト・ユー・ギブ』

いかにも「小説の映画化」な映画(いろいろ起こりすぎ)。
学校が舞台のジュブナイルだろうと思って気軽に行ったら、暴力満載の非常にシリアスな筋書きでビックリした。

原作はこれから読むけど、「名前」に重きを置いているのが聖書的で好き。

本作の公開前日に亡くなったAudrey Wellsの脚本はよかった。
先述のようにこれでもか、これでもかと大事件が尺をとるなか、各人の主張と、家族同士、恋人同士、友人同士の会話がきっちりバランスよく盛り込まれていた。
めちゃくちゃ登場人物多いのに「誰コレ」が1人もいなかった。
やや天然の彼、クリスがプロム帰りにスターを送るところ、家族に会う前のMac N' Cheeseチェックなんか最高だ。

今朝ドーナツ屋で、レジに並んだ警官の腰の拳銃を見るともなく見ていた。
ほどなくしてこちらを振り向いた彼と目が合った。

(11/4/2018 追記)
読みかけで放置していた2005年刊の↓この本を手に取ったら、周防監督が"Shall We Dance?"のプレミアの日にマンハッタンでAudrey Wellsと食事をした記述が出てきた。そう、『Shall We ダンス?』のリメイクを書いたのが彼女だったのだ。
監督も彼の通訳も彼女にとても好感をもっていて、その謙虚で真面目、控え目な人柄は脚本家同士の対談内容からも、素敵な横顔のスナップからも伝わって来た。ついでにその上演がはねた後のパーティでは、記念撮影が済んだらフーッといなくなった、っていうのも共感笑。
いいひとって早くに亡くなるよね...合掌。

原作はNY Timesベストセラーリストに1年間とどまり続けた人気のYA小説。

The Hate U Give

The Hate U Give

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邦訳。

トレーラー。

映画 What They Had を見た。家族の認知症と向き合う。『ディア・ファミリー 〜あなたを忘れない〜』

正統派ドラマ、いい映画。
暴力と何ら変わらない怒声が嫌いだが、この作品の家族の言い合いは不思議と気にならず。
シカゴの寒空も悪くない。

認知症については...過去そして現在関わっている認知症患者のそれぞれの症状を反芻するにつけ、個人的に思うところありすぎるのだが...
この物語のブライス・ダナー(グウィネス・パルトローのオカン!)のボケはまさに少女に戻った感じで美しくて、アレならいいじゃん、と思った。
本人も辛くなさそうだし。
一応、「シモの世話をしてるのはワイや」という説明はあったけれども。

本筋から少しずれるが、息子のバーに父親が訪れてマンハッタンを注文した小さな一節が一番好きだ。
これまでにも何度か書いたが、子が親の承認を得る話はいつも胸に迫る。自分に思い当たる節があるわけでもないのに。
息子は『シェイプ・オブ・ウォーター』でかわいそ過ぎたマイケル・シャノン。
素敵にエエ役で嬉しかった!

ヒラリー・スワンクの夫の配役が絶妙。
どういう人なのか想像させといて、まさにぴったりの感じの顔つきの人が出てきた。

そうそう、老人ホームの廊下に「バス停」があるのはナルホドな〜と思った。
認知症患者の記憶のかけらに寄り添うのね。

(3/2019追記)
なんぼなんでも、邦題ちょっと無くないですか?

トレーラー。

映画 Can You Ever Forgive Me? を見た。メリッサ・マッカーシー『ある女流作家の罪と罰』←orz

ニューヨークを舞台にしたライターの自叙伝が原作だと聞けば見ないわけにはいかない。
ひとりな大人たちを軽妙に描いたチャーミングな都会のおとぎ話。

カリフォルニアンとしては、雪が降りしきる窓の外に魂を奪われる。
図書館、「出張」先の公文書館、クダクダ好きな本に浸れそうなリーの寝室の描写も素敵。さらにネコつき。

これ、『カリフォルニア・タイプライター』の出演者たちが見たらよだれを垂らすのでは。

裁判の場面、リー・イズラエルの結審前の反省の弁、のはずが、「手紙の偽造にいそしんだ時代は輝いてたぜ私」の弁に耳を傾けながら、バツイチ同士出会い系サイトで出会い、さらに一緒に会社を始めた熟年カップルのことを思い浮かべた。

アメリカ人の彼女は、「勤め先の仕事が退屈で退屈で。起業にikigaiを求めている」と言った(実際、9時5時の間に新会社関連の相談がくる)。
日本人の彼が、生きがい生きがい言ってるんだろう。

確かに「生きがい」を英語で言いあらわそうと思えばいろいろ考えられるけど、一言では無理だな。
ツナミ、カローシ、カイゼンに続き英語になるか。

メモ、この映画で知って好きになった役者さん、ドリー・ウェルズ Dolly Wells。
リーの親友を演じたリチャード・E・グラントが最高。

原作。

トレーラー。

映画 Wildlife (2018) を見た。ポール・ダノ × ゾーイ・カザン脚本『ワイルドライフ』

リチャード・フォードの同名小説をポール & ゾーイカップルが脚本化、『ライフ・ゴーズ・オン 彼女たちの選択』と同様にモンタナの絶景を借りた文学作品。

ワイルドライフ(字幕版)

ワイルドライフ(字幕版)

  • キャリー・マリガン
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またまたホッパーの名画を思わせる「頑張ってるカット」はいろいろあったけど、お連れ合いのジャネットにはイライラしたわ。
ジェイク・ギレンホールが出稼ぎに行った後、あまりに急激に蓮っ葉になり、全くついていけなかった。
最近、何かに操られちゃってる人の話ばっかり見てるなーと思った。
もう大画面で酔っ払い見るのうんざり。

彼女のハタ迷惑な豹変には何の伏線もなかったと思うのだが、たまたま昨日、村上春樹の『眠り』を読んだところだったので、「このトチくるった人にも一理あるのかもしれない...」とも考えてしまい混乱した。

あと、息子くん(エド・オクセンボールド)はちょっと重すぎたかな。上手だけど。

なぜ『眠り』を収めた短編集『TVピープル』を唐突に買って読んだのかというと、川上未映子氏が村上氏に話を訊いた『みみずくは黄昏に飛びたつ』で興味をひかれたから。

村上 あれは「ニューヨーカー」に載ったんだけど、その頃、僕はまだアメリカではほとんど名前が知られてなくて、読んだ人の多くは、ハルキ・ムラカミって女性作家だと思っていたそうです。実際、女の人から「よく書いてくれた」ってファンレターが何通も来て(笑)。

ついでに、この珠玉のインタビュー集の最後。

村上 どれだけ本を焼いても、作家を埋めて殺しても、書物を読む人を残らず刑務所に送っても、教育システムを潰して子供に字を教えなくても、人は森の奥にこもって物語を語り継ぐんです。それが善き物語でさえあれば。(中略)
たとえ紙がなくなっても、人は語り継ぐ。フェイスブックとかツイッターの歴史なんて、まだ十年も経ってないわけじゃないですか。(中略)
それに比べれば、物語はたぶん4万年も5万年も続いているんだもの。蓄積が違います。恐れることは何もない。物語はそう簡単にはくたばらない。

聖書物語に信頼を置いている私にとって、目の前が明るくなる村上氏の預言でした。
ちなみに村上氏はリチャード・フォードの短編をいくつか翻訳しています。いかにも〜

原作。

トレーラー。