英語あそびなら天使の街

在L.A.言語オタ記。神さまのことば、天から目線の映画鑑賞日記。

映画 Certain Women を見た。クリステン・スチュワート、ミシェル・ウィリアムズ 『ライフ・ゴーズ・オン 彼女たちの選択』

モンタナの小さな街を舞台に、「アメリカン・ハニー」に続き、モーメントを静かに丁寧に綴ったマスターピース。
室内のカットなど、まるでEdward Hopperの絵画のよう。

ローラ・ダーン、ミシェル・ウィリアムズ、リリー・グラッドストン & クリステン・スチュワートの3部オムニバスで、リリーパートが最も鮮烈な印象を残した。

クリステンが成人クラスの講師を辞めた!ガビーン、と街まで1泊かけて探しに行ってしまったリリー。
とはいえ、(観客は皆分かっているとおり)それでクリステンとの間に何かが始まるわけではなく、呆然としながら「馬にエサやらなあかんし」と引き返すリリー。
フロントから抜いたその表情、エンジンの音、わびしい街の背景。

観客席全体がすっぽりと吸い込まれたシーンだった。
この後、彼女が何か絶叫したり、自殺したり、あるいは誰かが追いかけて来たりするわけでもないのもまた、見る者には分かっている。厳密に言うと事故ってはいるのだが、モンタナの大平原はそれすらも平然と飲み込み、彼女にドラマが起こることを許さないのだった。

そこに至るまでの3回の邂逅における「全く心が通い合わない2人」の描写の痛々しいこと。
馬まで一緒に乗ってるのに、それぞれ完全に別のことを考えている。
ダイナーで、同じ1つの食卓を挟んで座ってはいるものの、食事を共にしないのが象徴的。
余談:教会では、Jesusが皆でご飯食べるのがいかに好きだったかということ、人さまと食事をするのは愛の基本であることを毎週のように聞いている。「食べて祝おうではないか!」

ミシェル・ウィリアムズはテント暮らしなのにファッションがオシャンティー過ぎるのであった。

あと、イヌが出てくるたびに小さく笑う観客がいて気になる。
LAってそういう人の集まる街ではあるのだけど。

こういう作品の批評家レビューを読むのは楽しいもの。「それな!」というぴったりかつ素敵な英語表現を教えてもらえることが多々あるからだ。

そうそう、プレスカンファレンスの質疑を見ると、「ダイナーにおけるクリステンのナプキンの使い方」に引っかかった人は結構いることが分かって面白い。

それにしても、つくづく思ったのは…

寒い土地とか、ムリ!!!

【2/2024追記】
リリー編の原作短編、Maile Meloyの"Travis, B."(Both Ways Is the Only Way I Want It所収)を読んだ。ト書かと思うくらい些細な動作が映画と同じだが、ベスと出会う前と後のモノローグに新たに頷くところ多く楽しい。設定で大きく違うのは、リリーが20代初めの男性であること、そしてベスの成人学校への通勤時間が片道4時間ではなく9.5時間(!)なこと。今の国外リモートワーカーの月2回通勤のレベル。「彼女はフランスへも行けちゃうくらい時間を隔てた別世界に住んでいるのだ」という主人公の悟りが実感を伴う。

すんごい邦題でDVDスルー。

私はこの映画を見て、「ワインズバーグ・オハイオ」を読み返したくなった。
Kindle版もあるが、私はこの新潮文庫のカバーが好きでずっと持っている。
アメリカ文学史を修める人の必読書でもある。

本作は、私の個人的な2016映画トップ3の1つです。その他2作はこちら

トレーラー。

「ナプキンの使い方問題」に対する深読みいろいろ。記者会見映像。