公開2週目、意外に人が入っていて驚く。
判決の瞬間、観客の間から拍手が起こった。
ホロコースト専門のヒストリアンと、「彼女の本に名誉を毀損された!」と訴えたホロコースト否定論者のリーガル対決。
まず、こういうくだらない訴訟が英国でわりと最近起こったということに驚いた。
今の日本見てると何年前の議論だよ、と思うことが多々あるわけだけど、欧米だって「差別、カッコわるい」の建前ができたのは戦後、実は案外最近なのだった。(80年代までアフリカ系差別法が生きていた州もあることを最近知った)
デボラと法律家たちのやりとりがユーモアのある筆致で描かれていて、とても面白い。
特に主人公のディフェンスチームのキャラクターのバランスが良かった。
アメリカ法廷ものと明らかに違い、英国法廷が舞台になるだけで洒脱さがあるのも興味深かった。
この訴訟の告発者、アーヴィンは不幸な人ではなさそうだけど、彼のような人格を見ていると、アメリカのトウモロコシ支持者を思わずにはいられなかった。
「アメリカン・ハニー」で、貧乏主人公が金持ち家のスノビズムに反発して「何笑ってんだ、ババァ」と罵倒した時にも思ったけど、彼らは建前を死守している人たちに一泡吹かせたいだけなのだ。実際、トウモロコシが大統領になれば一番に舌を出され、切り捨てられるのは彼らなのに、「今より悪化しても失うものないし」うそぶくけど、本当は実感として分かってないんじゃないかな。
話を戻すと、ほんでまた、アーヴィンの主張っていうのがさ、誤訳したドイツ語がベースだったりして、日本のネットで吹き上がってる人たちと同じなわけ。
そして昨今の日本のリビジョニスト内閣 featuring首相のことも否応なく思い出し、この映画のような結末はさらに遠いんだよなと暗澹たる気持ちに。
たとえばcomfort womenの件など、人種差別、女性蔑視も絡まり合って、残り少なくなったサバイバーたちの悲痛に対して塩すりこむような発言ばかりがオーソリティから出てくるので本当に絶望している。日本国外でまともに取り合われていない(それどころか、NYT一面広告などでかえって負のイメージ増幅中)のが小さな救いだが。
こちらのアジア情報サイトにも修正主義者からの気持ち悪いメールがきたことは前にも書いたが、一度、私も個人的に歴史の被害者をおとしめる人と喧嘩したことがあった。それは日本人の女性で、自分が昔中絶したことを引き合いに出し、「慰安婦の被害者はゆるすべきだ、そうでないと未来はない。私だってゆるしだんたし」と言い出した。一体どこから突っ込んでよいものやら分からず、「好きでやった自分とレイプサバイバーを一緒にするな、っていうか何で一緒にできるの?で、もし『ゆるしなさい』と言える人がいたとしてもそれはアンタじゃない!」とめちゃくちゃ怒ってしまったのだった。今思い出しても腹が立つ。
「むし返すな」(!)などという、外交文脈上で到底あるまじき言葉とともにビタビタ突きつけられるハシタ金なんて要らない、最後にデボラが言ったように、心から、You're remembered. と、言ってほしい。
被害者の思いはそれだけだよ。
終演後、トイレでおばさん2人が、「友人がホロコーストサバイバーでさ」と猛々しく話していて、耳ダンボ。
お茶とジャムのサンドイッチと、朝食の卵、それからこの訴訟が初めてだという若き弁護士のタバコ、というアクセントがよく利いている。
早速、デボラの書いた原作を買った。
レビューでは修正主義者がレートを下げていて、ほんと、勝手にフラストレーションためたヒマ人がやることって、どこの国でも同じ。
少々意外ですが、日本公開も決まったようで良かった!
但、トランPのどっちもどっち発言を思い出させる邦題には吐き気がします。邦題決めた方には恥を知ってほしい。
トレーラー。