英語あそびなら天使の街

在L.A.言語オタ記。神さまのことば、天から目線の映画鑑賞日記。

2022年アカデミー短編ドキュメンタリー映画賞ノミネート作5本を一気見した。

今年は4/5本が米国が舞台の米国作品だったせいか、粒が揃いすぎているというか、ズレを感じて問いが深まったり、新しい世界が広がったりした作品はなかった。

それでもなんとか、印象に残った順に。
■ The Queen of Basketball『ザ・クイーン・オブ・バスケットボール』
一番面白かった。女子バスケ選手のパイオニア、ルーシー・ハリスの回想。
大学チャンピオンになったはいいが、その後行くところがない、という...。なんとNBAの誘いがくるが、男性相手に闘うのは違う、と若くして引退。
こう何度も「後悔はしてない」と言われると、やっぱりもったいなかったね、今も幸せだけど、もっと感動的な人生を送れたのにね、とこっちが落胆してしまうよ。

『ドリームプラン』を見たときも感じたが、芸ごとで食えるかどうかはすべて運。競技や生まれる時代・場所が違えば、彼女は大富豪になっていたはずなのだ。
まだ60代だというのに、その姿からは元スポーツ選手だった頃の片鱗は伺えない。この頃のアスリートは身体のケアについては学べなかったのだろうか...。

NY TimesのOP-docsとして公開されている。

■ Audible 『オーディブル: 鼓動を響かせて』
脚本がすけて見えるタイプの「ドキュメンタリー」で私は好きではないが、この作品が受賞するかなーと思った。
偶然か、今年度は手話使用者が活躍する作品の当たり年で、特権を持つ側としては賞賛するのも要注意だが、耳を、心をひらかされることが多かった。

今思えば2000年前後、日本でろう者ではない俳優がろう者を演じるドラマがいっぱいあったよね。『オレンジデイズ』『愛していると言ってくれ』(北川悦吏子は常盤貴子を車いすに乗せたりもしていたっけ)、『星の金貨』、6年後にダメ押しの『新・星の金貨』...。

ひでえ話だよ。何とも思わずに見ていた自分が恥ずかしい。今はさすがにこういう作品づくりはないよね。日本の役者の層は米国とは比べられないくらい薄いのは知ってるけど(忍足亜希子しか思い浮かばない)、デフシアターもあるし。
【3/13/2022追記】
という話をしていたら、今週末からNHKで鶴瓶がろう者を演じるドラマが始まって各方面になめくさった仕上がりだとか。なんなの。ノーモア収奪。

Netflixで配信中。

■ Lead Me Home 『リード・ミー・ホーム』
ロサンゼルスとサンフランシスコのホームレス問題を変にきれいに撮影。
いつもの見慣れた光景。
家のない女性たちに暴力をふるい、妊娠させた野郎どもは地獄に落ちろ。

今日、映画館を出たら1ブロック先でモデルみたいにすらっとしたワンピース姿の女性から小銭をくれと言われた。ホームレス状態なのかどうかはわからない。

Netflixで配信中。

■ Three Songs for Benazir『ベナジルに捧げる3つの歌』
選択肢のない苦しみ。Lead Me Homeもそうだが、教育が足りないゆえの問題の家族連鎖。

米国としてはアフガニスタンの被害状況も忘れてはならない。
パリでテロが起きたときも世界からの関心の集まり方のムラについて議論になったが(つまるところ、その地域に知人がいるかどうか、つながりの濃淡の違いであって当然といえば当然。なかなか世界の構造的な暴力にまで思いが及ばない)、今回は各国のレポーターが報道の中で無邪気に差別主義を開陳していて侵攻の理不尽と同じくらい苦しく感じる。黒人親子がシェルターに入るのを拒まれている映像には自分や家族が同じ目にあったような気持ちに。

こういうマイノリティ監督の意欲作をすくい上げているのは、Netflixのいいところだと思う。

Netflixで配信中。

■ When We Were Bullies 『私たちがいじめっ子だった頃』
小学生時代にクラス全員で1人の生徒をミンチにした過去を存命のクラスメイトと教師へのインタビューを通して振り返るという後味の悪い作品。やたらおしゃれなクラフトアニメーションを見ていると「茶化すなよ...」という気分になる。

トレーラー。