フローリアン・ゼレールの手によるアンソニー・ホプキンスの優れた「一人芝居」。
これまでに出会った、そして今まわりにいる認知症患者のいろいろなシーンが次々に掘り起こされること必至。
肉親については、死別して悲しみに耐えるよりも、認知症を患ったかれらと向き合うほうがはるかに苦しいと私は思う。
アンとポールという形で描かれているように、日々淋しい別れを繰り返しつつ、憎しみまでわいてくるのだから。
患者本人の戸惑いをわずかながら体感できる仕掛も巧み。
彼みたいな被害妄想系は辛いはず。
実際、私の曾祖母がこれで、「辛い毎日です(私を曾孫だと認識していないので敬語)」と言っていたのだ。
しょっちゅう「枕が盗まれた」と騒いでは、「誰がそんなもん盗るんよ?」と祖母に言い返されてバトルになっていた。
また、理性のきいた状態では言わなかった悪態をつくのもしんどいと思う。
聞かされる周囲はもちろん、本来なら隠したかったはずの部分を出してしまう本人にとっても。自分の尊厳を自分で崩壊させてしまうんだよ...。
直接の知人にはいないが、友人の一人が、ご母堂から初めて「バカ野郎」とどやされて心底仰天したと言っていた。
母の辞書にそんな言葉がストックされていたとは、と。
あとね~、アンソニーが調子よく客人にウィスキーでも?と言ってアンに用意させるのムカついた。
ケアラーに回ったことのない人がボケる地獄。
知人男性が、祖父母の介護にヘルパーさんに来てもらっている家族について陰で「外の人に世話を任せている冷たい家族」とさばいていたのを思い出してしまって。そういう人は絶対に自分はケアしないんだよ怒
日本では橋爪功主演で原作の戯曲が上演されたようですね。私も舞台で見たい。
欧州各地の戯曲賞を総なめにしている原作。
トレーラー。