英語あそびなら天使の街

在L.A.言語オタ記。神さまのことば、天から目線の映画鑑賞日記。

映画 The Father を家で見た。アンソニー・ホプキンス is 『ファーザー』

フローリアン・ゼレールの手によるアンソニー・ホプキンスの優れた「一人芝居」。

これまでに出会った、そして今まわりにいる認知症患者のいろいろなシーンが次々に掘り起こされること必至。
肉親については、死別して悲しみに耐えるよりも、認知症を患ったかれらと向き合うほうがはるかに苦しいと私は思う。
アンとポールという形で描かれているように、日々淋しい別れを繰り返しつつ、憎しみまでわいてくるのだから。

患者本人の戸惑いをわずかながら体感できる仕掛も巧み。
彼みたいな被害妄想系は辛いはず。
実際、私の曾祖母がこれで、「辛い毎日です(私を曾孫だと認識していないので敬語)」と言っていたのだ。
しょっちゅう「枕が盗まれた」と騒いでは、「誰がそんなもん盗るんよ?」と祖母に言い返されてバトルになっていた。

また、理性のきいた状態では言わなかった悪態をつくのもしんどいと思う。
聞かされる周囲はもちろん、本来なら隠したかったはずの部分を出してしまう本人にとっても。自分の尊厳を自分で崩壊させてしまうんだよ...。
直接の知人にはいないが、友人の一人が、ご母堂から初めて「バカ野郎」とどやされて心底仰天したと言っていた。
母の辞書にそんな言葉がストックされていたとは、と。

あとね~、アンソニーが調子よく客人にウィスキーでも?と言ってアンに用意させるのムカついた。
ケアラーに回ったことのない人がボケる地獄。
知人男性が、祖父母の介護にヘルパーさんに来てもらっている家族について陰で「外の人に世話を任せている冷たい家族」とさばいていたのを思い出してしまって。そういう人は絶対に自分はケアしないんだよ怒

ファーザー(字幕版)

ファーザー(字幕版)

  • アンソニー・ホプキンス
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日本では橋爪功主演で原作の戯曲が上演されたようですね。私も舞台で見たい。

欧州各地の戯曲賞を総なめにしている原作。

トレーラー。

映画 Sound of Metal を家で見た。『サウンド・オブ・メタル 聞こえるということ』

充実したロードムービーだった。

最後まで見て、タイトルがぴったり立ち上がってくるような。
そもそもsoundは興味深い言葉で、空気を撼わせる音と、undisturbed, secureのような静かなイメージの両方を備えている(但、前者はラテン語由来、後者はゲルマン語の「健康」由来の同音同綴異語)。
メタルも途中からそっちかー、と思うはず。

チェリストの友人が常々「世の中の人工音はことごとく大きすぎる」と言っていて、映画館も一緒に行けないのだが、彼女は手術後のルーベンのように感じることもあるのだろうか、と想像した。

冒頭、はよステロイド打ってもらいなよーーー!と焦ったけど、間に合わなかったんやろか。打たないほうがいい人もいるの?

時系列的に聴力が戻る可能性が前提に流れているとはいえ、ミュージシャンとしての苦しみはあまり描かれていなかったような。

学生の頃、デフシアターに通ったり、耳の聞こえない学生に同席して講義のスクリプトを取ったりしたときのことをあれこれ思い出した。
今はこの映画で説明されているように、もっと便利なソリューションが実現しているはず。

ASLといえば、大統領選勝利宣言の通訳がめちゃくちゃ素晴らしかったので見て。
ふたりが選んだ登場曲の歌詞(重要)、観衆の歓声、ホーンの音まで見事に再現している。

トレーラー。

映画 Rose Plays Julie を家で見た。Joe Lawlor × Christine Molloy『ローズ・プレイズ・ジュリー』

ブリテン諸島の美しい風景の中で繰り広げられる母娘の復讐劇。
「ジュリー」の登場で自分が幸運な人生を送ってきたことに気づいた悪者、最期までラッキーなのだった。
娘が獣医学生でよかったな怒

キャンパスレイプ未遂のエピソード、現場を押さえられた学生が普通にキャンパス歩いてるの、おかしい。
Herself『サンドラの小さな家』に続いてアイルランドの女性の人権の扱い、やばくない?

劇中劇のしょぼさはちょっと残念だったが、俳優母役のOrla Bradyの深みは大変魅力的。メーキャップも素敵だった。

レイプ加害者の名前を尋ねた娘、精神的な傷を語った文脈で「事件以来その名前は口にできない」という母に「じゃ、スマホに入力して」って、まさかそれ言うか、オカンも応じるんかーいと笑ってしまった。
一休さんじゃあるまいし、そういう問題じゃないだろう。

トレーラー。

映画 The Inheritance (2021) を家で見た。Ephraim Asili『ジ・インヘリタンス』in ウェスト・フィラデルフィア

大統領就任式に登壇した桂冠詩人アマンダ・ゴーマン氏が、朗読の前にとなえるというマントラ。
この映画ではこのマントラが指す系譜、ファミリーツリーの意味の片鱗にふれられる。

I’m the daughter of Black writers who are descended from Freedom Fighters who broke their chains and changed the world. They call me.

実際に優れた「詩詠み」も続々登場する。

監督が"archive of Black thought"と説明したように、音楽、ポスター、過去の事件時の映像、かれらが詠んでいる本で、次々と新しいドアが開かれる。
北野武っぽい編集も、はじめは「きついかも」と思ったが、街の一景を含めたアーティファクトをじっくり眺めるにはぴったり。

但、最後は陳腐、残念。Inheritanceだからね、わかるけど。

ところで、このShoeless houseを見ていて、靴下姿というのはやっぱり下着姿と同じなんだなと思った。
少なくともアメリカの家を靴下で歩くと絵的にヘンだ。

トレーラー。

ゴーマン氏のマントラが聞ける動画のひとつ。
このインタビューはクーパーの返しと朗読(カンペが手元にあるようなので最後は暗唱してる??)も素敵で永遠にリピートしてしまう。

映画 Promising Young Womanを家で、The Digを映画館で見た。キャリー・マリガン『プロミシング・ヤング・ウーマン』と『時の面影』

ふたりのキャリー・マリガンに出会ったメモ。

●『プロミシング・ヤング・ウーマン』Promising Young Woman

泣いた。
女性は命まで捧げないと性被害の訴えに耳を傾けてもらえないのか。

本編の中の人たちにとってCassieはサイコパスあるいはソシオパス(カウントできただけで3回もそう罵倒されていた)。
でも、サイコパスを据えた物語が嫌いな私から見て、彼女ほど正気な人はいない。

並行してブレット・カバノー判事(断じてjusticeではない)の公聴会、それからスタンフォード大の水泳選手の性暴行事件のときに感じた怒りが改めてわいてきた。
カバノーなんかさ、自分の娘までダシにして嘘泣きしまくってたからな怒。
でまたそれが通ってしまい、訴えた博士は大バッシングを受けて引っ越しまでする羽目になるという怒怒怒。

BFを夕食に招いた日のお父さんの言葉、悲しかったけど慰めだった。
死んだNinaだけじゃなく、事実上、自分の娘まで失われたのがつらいのだと。
本来なら前向きなターニングポイントになるはずだったその夕餉は、後から考えると親として二人がマッチしていないのを感知していたように思える。

フィクションながらクズどもにまともな裁きが下ってほしいと思うが、件の水泳選手みたいに金とエスタブリッシュメントの力で正当防衛、昔の話、とかに矮小化されそうで恐ろしい。まわりの男だけでなく女にも否認が発動しまくる地獄。

力の抜けたボー・バーナム適役、とことんきたねえ男を演じていてそれにも泣いた。

音楽よかった。特にラストのAngel Of The Morningは最高にシュール。80年代みたっぷりのカバーが切ない。
マリガンも気に入ったというToxicのアレンジもぴったり。

スタンフォード大の事件の被害者の勇気ある告発の書は邦訳も出たようで素晴らしい。
彼女が名乗りでてアジア系だとわかったことで、加害者側の言い分の別の闇に光があたった。

トレーラー。

●『時の面影』The Dig

早くイギリスに行きたくなる逸品。レイフ・ファインズが素敵。
物語として、墳丘墓を掘り当てた人にきちんとクレジットを与えているのがいい。
ただ、戦時期の説明役だろうけど、シンデレラ & 兵士カップル必要だった?

トレーラー。