英語あそびなら天使の街

在L.A.言語オタ記。神さまのことば、天から目線の映画鑑賞日記。

初めて韓国ドラマを完走した

韓国ドラマといえば、冬ソナの最終回20分だけ見たのが20年近く前。
あのときもまわりにそこそこ見ている人はいたけれど、記憶喪失というだけでげんなりするし、同僚から『夏の香り』がいかに同じ話かを聞いて大笑いして終わった。

そして素晴らしい目利きの韓国のオーディエンスの力もあって迎えた今の黄金期。
友人の中には韓国に留学し、映像翻訳を仕事にしてしまう人まで出てきた。
で、いろんな人がいろんなのを勧めてくれるのだが、『イカゲーム』は2話で脱落。ひとっとびに最終回をのぞいたらイ・ビョンホンが出てきてビックリした。
『愛の不時着』は1.5話で脱落。荒川良々くんに似た主人公に乗れず、最後に妙なイメージ映像みたいなのが出てくるのもnot for me.
敬愛するこっちの某作家が絶賛していたゾンビドラマ『今、私たちの学校は…』も20分で退室。

そんな私がついに完走した!
My Liberation Notes『私の解放日誌』だ。
この脚本家さんの作品は他のも見てみたい。
そのくらい、瞠目させられたシーケンスが3つあったのでメモしておく。

ちなみに私は韓国語がほぼわからないので、セリフ部分は日英語の翻訳者さんの解釈を通して見ている。

1) クさんの大ジャンプを見た後の長男坊。
親父が帰宅途中にカボチャをもいで地面に置くのだが、それを拾ってルンルン飛びはねていく。後ろから見送る親父。
(後のシーンで、毎日が平凡すぎるあまり、ジャンプくらいで興奮してしまうのだ、という説明が入る)

2) 姉が男に金を貸したミジョンを「ばかちーん」と言って殴るところ。
この後のミジョンのべそべそも実にうまい。
ここに限らず、この3兄妹は泣くときの解放ぶりがすばらしい。見る者の胸にまっすぐ届く。
他に同じくらい自我をそぎ落としている(ように見せられる)役者さんを思いつかない。

3) ミジョンとクさんが再会後、なんとはなしに肩を並べて歩いていくところで、「これどこかに向かってんの?」「いや別に」「どっかでコーヒーでも?」「寒い?」「寒くない」「じゃあこのままで、向かい合って座るのも気まずいから」
の流れがすごい。
確かに日常で「これ、どっか向かってる?」って言うことあるよ。
でもそれを、たとえば結婚などのゴールを持つことのない、あてのないフラジャイルな関係性のカップルの映像で見せられて、リアルだとかいうことを超えて、細部に宿った神にグッときた。

翻訳の話に戻ると、字数制限がゆるい英語のほうに「あ、こっちのほうがいいセリフだ」と思うところがいくつかあった。ただ、どっちのほうがオリジナルの核心に迫っているのかは判断がつかないので、やっぱり韓国語をもっと勉強しないとダメだなー。
これは数百レベルの翻訳バージョンがある英語の聖書でもよくあること。「この聖句、ASVだとすごく感動したのに、NIVで読むといまいちだ...。原語がこっちに近かったらちょっと残念かも...」とか。

それから、「今日はいいことがある」の看板については、ちょっと解釈が追いつかない。
"Something good is going to happen to you today"というのは、うちの教会でも毎週言われるプロテスタントのマントラみたいなフレーズ。
文脈どおりだと、「いいこと」は、ミジョンが言うような「いいこと」じゃなくて、イエスの福音です。
もちろん、ミジョンも、クロスのペンダントをしているクさんもそれは分かっていると思う。
一箇所だったか、「いいことがある」の下に聖句までがっちり書かれている看板のシーンもあったし。
それを含めると、ちょっと素直に見られない小道具だった。

「世界人類が平和でありますように」のポールみたいに、スポンサーの分からないフレーズだけのサイネージって、即座に「宗教だ」と思うし、ステルス感があるからかちょっと気持ち悪い印象じゃないですか。

ドラマに出てきた聖句↓
上述のように字数が長くなるのが平気な英語字幕だと、きっちり聖句の引用まで訳出されているので、韓国語で見る人同様、英語字幕で見る人もたとえ"Something good is going to happen to you"に聞き覚えがなくても教会の布教看板だとわかるようになっている。

しかし、イエスはすぐ彼らに声をかけ、「しっかりするのだ。わたしである。恐れることはない」と言われた。(マルコ6:50)

実は、男尊女卑な親父の造形に一番惹かれてしまい、幸せでありますようにと願ってしまった。
うちの父親に似てたからかな。

最後はクリフハンガーになっていたのでシーズン2があるのでしょうが、この続きはそんなに興味ないかも。

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