英語あそびなら天使の街

在L.A.言語オタ記。神さまのことば、天から目線の映画鑑賞日記。

いま改めて見たい映画 #BlackLivesMatter

昨日は全米で過去最大規模の抗議行動が行われた。うちの近所でも30名規模の連帯デモがいくつか。私は13THを見直し、付き合いのある黒人教会に特に連帯を示し、自分ができる中では最大のインパクトだと考えることをした。
ちなみにこの教会は本当にすばらしい教会なのだが、若い教会員の自殺が多いのが深刻な問題になっている。

私が通ったキンダーガーデンでは、クラスの7割は自分も含めて有色人種だった。黒人のナターシャ、キーシャ、そしてベッシー先生は特別にやさしくて、いつもかれらのきめ細かいオシャレな編み込みを驚嘆して見つめていた。お父さんやお母さんがやってくれるとのことだったが何と器用なのか。カフェテリアの真ん中にはマへリア・ジャクソンみたいな見張りおばさんが立ちはだかっていて、壁の信号を操作していた。子どもたちがmessなときは信号が赤になる(「東京アラート」みたいなもの...)。緑のときは"Oh, my goodness"と言って満足そうにほほ笑んでいた。特に行儀の悪いことをした子どもを名指ししては自分のテーブルで食べさせる。私も一度呼ばれたときは心底恐ろしくて、Youよ、You!と言われて、ナターシャの背中に隠れたりした。それでも子どもたちはよく大人を見ているもので、彼女を愛していた。おばさんに自分が描いた絵をプレゼントする子どもは絶えなかったし、「おばさんのテーブル」の前にはそんな贈り物がたくさん貼ってあった。

そこは今でいう真っ赤な州で、行く場所に行けば白人しかいなかったし(おハイソ教会とか大学とか)、親はいろいろとイヤな思いもしたようだが、子どもの私には楽しいことしかなかった。ただ、人種に対する意識として、カフェテリアでミルクかチョコレートミルクを選ぶときに「黒くなりたくないから、チョコレートミルクは飲まない」とまわりの日本人の大人に言ったことを覚えている。本当にそう信じていたのではなく、それがウケるだろうと思って言ったのだ。今でも覚えているのは、自分で言っときながら違和感と罪悪感が生じていたからではないかと思う。

大学では米国史で卒論を書いたのだが、テーマは1930年代の貧乏白人の出エジプト記。人種問題の変数には全然考えが及んでいなかった。また、これまでに見た映画の表象を思い起こし、真剣に怒りを共有したい。

映画タイトルは、鑑賞日の日記にリンクしています。

13TH 『13th -憲法修正第13条-』
NetflixがYoutubeで無料公開してくれている。「差別されているのは黒人だけじゃない」という物言いが問題をマスキングしていることに気づくために。通りに出ている子どもたちも、All Lives Matterなんて言われなくても分かってます。

Just Mercy『黒い司法 0%からの奇跡』
13THにも登場する弁護士、ブライアン・スティーブンソンが米国の司法の闇を伝える。
複数プラットフォームが連帯を示して無料公開しています。https://www.justmercyfilm.com/

Selma『グローリー/明日への行進』
MLKとセルマ大行進。実は私はこの映画の中では、運動の支持に回った白人たちが追跡を受けて殺されてしまったことに衝撃を受けた。

Queen & Slim 『クイーン&スリム』
「警官に止められたら終わり」。2人には逃げる選択しかなかった。

Harriet 『ハリエット』
自由への闘争を率いたハリエット・タブマンの生涯。

Toni Morrison: The Pieces I Am 『トニ・モリスン ザ・ピーシズ・アイ・アム』
「この国ではアメリカ人とは白人を意味する。それ以外はハイフンを付けなければならない」。
「私たちは言語をすなるもの。どんな言語を紡いだかが人生を決めるのではないか」と言ったトニさんが掘り起こした小さき者の声。

The Last Black Man in San Francisco 『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』
黒人の位相から切り取った金満の街、サンフランシスコ。

Amazing Grace (2019) アレサ・フランクリンの『アメージング・グレース』
ソウルの神髄。アメリカの「国教」としての多面体のキリスト教の一側面。元は奴隷の時代に白人から伝道されたのだろうと思うと複雑だ。

If Beale Street Could Talk 『ビール・ストリートの恋人たち』
社会によって不当に引き裂かれたカップルの魂のうめき。

Green Book 『グリーン・ブック』
白人のオナニー映画として批判もされた作品だが、黒人が自由に旅行できなかった歴史の一端を垣間見ることができる。

The Hate U Give 『ヘイト・ユー・ギブ』
最近、黒人少年が殺されないために親からどんなことを教わるのかという投稿がバイラルになったが、この作品もまさにそんなシーンから始まる。タイトルが示すとおり、誰もヘイトを抱えて生まれてくるわけではない。子どもではなく大人の、そして黒人ではなく白人の問題。

BlacKkKlansman 『ブラック・クランズマン』
シャーロッツビルの事件のちょうど1年後に公開。白人至上主義のいかがわしさを炙り出した作品。

Blindspotting 『ブラインドスポッティング』
場所はオークランド。「息ができない」苦しみをわずかながら体感できる。

Sorry to Bother You 『ホワイト・ボイス』
『ブラッククランズマン』にも描かれていた白人界に生きるための知恵を盛り込み、皮肉る。

Black Panther 『ブラックパンサー』
エリック・キルモンガーの苦悩にこそ。

Mudbound 『マッドバウンド 哀しき友情』
Netflixで見られるはず。一緒に従軍しても溶けることのない人種間の垣根。

Marshall (2017) 『マーシャル 法廷を変えた男』
アフリカ系として初めて最高裁判所判事になったサーグッド・マーシャルのむちゃくちゃ象徴的なケースを描く。13THでも紹介された『國民の創生』に表されていた、「白人女性を襲いたがる黒人」という白人目線の虚偽の問題設定を扱っている。

Get Out 『ゲット・アウト』
「私にも黒人の友達がいるし」の問題点を巧みに指摘。ラストで返り討ちにあった白人女性が、パトカーが来たのを見て自分に利ありと助けを求めるシーンは、最近、NYで黒人に注意された白人女性が警察に「アフリカ系アメリカ人に暴力をふるわれている」とウソを訴えた構図と全く同じ。

Hidden Figures 『ドリーム』
地上が慌ただしすぎて別世界の話に思えるけど、先週、民間のスペースシャトルの打ち上げが成功。スポークスパーソン陣やミッションコントロールに(少なくとも絵的には)多様性が見られたことは喜ばしい。それにしても宇宙飛行士が絶対コロナにかからないというのをどうやって担保できたのだろうと思うわ。

Moonlight 『ムーンライト』
面と向かってされる差別からさえ遠い、黒人社会の内部の抑圧。この映画がアカデミー作品賞をとったことさえ、白人の内輪ノリと思われる面がまだまだあって根深い。

Loving 『ラビング 愛という名前のふたり』
人種間の結婚が禁じられていた時代について。

Southside with You 『サウスサイドであなたと』
オバマ夫妻と、彼らが生きたブラックコミュニティ。

The Long Walk Home『ロング・ウォーク・ホーム』
最後に、昔、日本の深夜放送(この放送枠で知った佳作はいろいろある。吹き替えではなく字幕での放送も多かった)で初めて見て以来、好きなシーンが多すぎて何度も見返している古い作品を。最後の少女のモノローグを、まさに自分のこととして噛み締めずにはいられない。