英語あそびなら天使の街

在L.A.言語オタ記。神さまのことば、天から目線の映画鑑賞日記。

映画 Murder on the Orient Express (2017)を見た。ケネス・ブラナーの『オリエント急行殺人事件』

また1人、戦争を知っている人物をなくした。敬愛する彼女を通して神が与えてくれたものにただ感謝。

ケネス・ブラナーの『オリエント急行殺人事件』、評判どおり?映画としては、ひとつもエエとこなし。
Ebertが2/4を付けたのは信じ難い。サムズダウンかせいせい0.5でしょう。

それでも観に行ったのはやっぱり原作が好きで、どう料理されているのか、お金だけはかかっているので(LA市内の屋外広告が大規模だった。この数年で、405 southに大広告を出した映画はコケる、という私的法則完成)どんなオリエント急行が出現するのだろう… という興味から。こういうヒトがたくさんいるから、本作は何度も映像化されるのですね。実際、封切り週とはいえ、思いの他大入りでした。

全体的にディズニー映画みたいだった。絵がコテコテしていて、ずっとテレビCMを観ているような。
ワクワクしたのは列車の出発くらいかな。Titanicの出航を思い出しました。

「再現映像」がすんごいチャチくて、これでいいわけ?と思うのだが、じゃあ、どうだったら良かったのだろう?と考え始めてしまう。
スタア12人を同じ場面に収めないといけなくて、諸々大変でしたよね、とお察ししてしまう。
『蜜蜂と遠雷』の言葉を借りて、元の楽譜がないように聞こえるのが優れた演奏なんだとしたら、この映画はめっちゃ譜面の見える作品です。

脚本も終始ピンぼけだったと思う。
私が初めてこの物語を知ったのは、学研の付録の小冊子、子ども用に短く易しく書き直されたものを通して。
今思うと、ライターさんのアダプテーションという技術はすごいね。
きっちりいいセリフを覚えているということは、あらすじに終わってないということだもの。
後で原作にふれた時も、「あのセリフは?あのセリフはいつ出てくるの?」と思いながら読むことになった。

で、この映画も「あのセリフは?あのセリフ言ってくれるでしょうね?」とずっと急く思いで観ていて…

なんだ、あのミシェルとポワロのシメは(怒)

と言うか、justiceとか言い出すなら「ポワロ」を名乗らないでほしいわ...

悪いことは言いません。原作を楽しみましょう。ハイコストパフォーマンス!

映像で観たほうが分かりやすいのは、ポワロの言語に対する知見が推理に大きな役割を果たしていること。
グーグル先生もいない時代、カンだけでなく、膨大な知識と経験を駆使するポワロ、カッコいいよなあ。
私もディケンズで大笑いできるようになりたい。
作中、フランス語、ドイツ語、それぞれの訛りの英語、アメリカ語が楽しめます。

私は「洋書は何読んだらいいの?」と聞かれるたび、「質問がおかしーわ。読みたいもの読め」と返していますが、ひとつ言えるとしたら、アガサ・クリスティは素晴らしい英語教師です。
あちこちのメディアに「クリスティベスト10」が出ているので、面白そう!な作品からどうぞ。(The Murder of Roger Ackroydと、The ABC Murdersが上位に入っていることが多い。日本では『そして誰もいなくなった』が人気ですね)
ただ、私が一番好きなのは、ウェストマコット名義で書かれた、殺人の起きない作品Absent in the springです。
自分は幸せと信じていた平凡な主婦が、思いがけず砂漠に閉じ込められたのを機に家族の真実に気づく…かも?

邦題が美しいです。

小説ではないですが、考古学者の夫との旅行記をベースにした自伝も実にいいです。突出した作家はこのタイトルどおり、聞く耳を持っているんだなと。

訳者は深町眞理子先生ではないですか!!今買った。

トレーラー。