英語あそびなら天使の街

在L.A.言語オタ記。神さまのことば、天から目線の映画鑑賞日記。

映画 The Killing of a Sacred Deer を見た。カンヌ脚本賞『聖なる鹿殺し』

注:ネタバレあります。ストレスフルな作品。
短い期間に『ビガイルド』と本作を撮ったニコール・キッドマンとコリン・ファレルは鋼のメンタルだと思う。

個人的には、楽しめたのは半分まで。
前半、立体駐車場でマーティンが目の端に入るシーケンスなどはとても興奮した。
でもマーティンを地下に監禁し、全員がトチ狂い始めたあたりからつまらなくなる。

撮影監督に拍手したい。
何気ない中西部の都会を妙に不気味に撮ったことに。
港、病院、駐車場、街角も全部。ただ天気悪いだけじゃなくて生命体がいない感じがする。

ギリシャ神話がモチーフだということだが、「聖なるいけにえ」に限らず、聖書を思わせる喩が多いと思った。
先日の「おため返し」もそうだけど、全く別の場所で別の言語で生まれた世界中の物語、フォークロアには不思議と共通点があるのよね。

例えば、マーティンの声で立ち上がる娘。
ジーザスでなく、サタンを信じて行動しても、言葉は実現するわけです。
信仰ってそういうものだけど、ちょー恐い。

そのとき、足のなえた者は鹿のようにとびはね、口のきけない者の舌は喜び歌う。(イザヤ35:5)

その廊の中には、病人、盲人、足なえ、やせ衰えた者などが、大ぜいからだを横たえていた。(中略)
イエスは彼が伏せっているのを見、それがもう長い間のことなのを知って、彼に言われた。「よくなりたいか」
「主よ、水が動く時に、わたしを池の中に入れてくれる人がいません。わたしがはいりかけると、ほかの人が先に降りて行くのです」
イエスは彼に言われた。「起きて、床を取り上げて歩きなさい」
すると、その人はすぐに直って、床を取り上げて歩き出した。(ヨハネ5:3-9)

そして、神を賛美している途中で倒れる娘も恐い。
私は礼拝中にうっかり携帯を鳴らす人がいると、いら立ち以上に恐怖を感じるのだが、いろんな意味であのシーンはデンジャラス。

キッドマン、上下揃ってない下着とか、ばしばしフロス使う姿とか、娘の電話に耳をすます横顔(ここはカット割りもカッコいい)の説得力に感心した。
やっぱり日本人にあそこまでのプロ役者はなかなかいないな〜

『ダンケルク』でムダ死にした少年、バリー・コーガンはまあ怪演で、ラクにやってるように見えるところがすごいんだけど、ああいうキャラクターはかえって簡単だと思う。ヘンでいいんだから。
噂に聞いていたスパゲティシーンはやり過ぎ。私はあそこで完全に醒めました。
「パスタ食べたくなるかもなー、でも夜にカーボはな〜」と心配したが、杞憂でした。

ギリシャ人監督と言えば、パルム・ドールの『永遠と一日(Μιά αιωνιότητα και μιά μέρα)』を映画館まで見に行って文字通り初めから終わりまでこんこんと眠ってしまったことがあった。あんなことは後にも先にもない。なんとなくビーチが見えたことしか覚えてない…
ギリシャ語好きなんだけど…

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トレーラー。