英語あそびなら天使の街

在L.A.言語オタ記。神さまのことば、天から目線の映画鑑賞日記。

映画 Ordinary Love (2019) を見た。レスリー・マンヴィル ♥ リーアム・ニーソン『オーディナリー・ラブ ありふれた愛の物語』

バレンタインムービー第2弾。
病めるときも手を携えて旅をする仲良し夫婦の物語。粋な気持ちのよい映画だった。

子どもを亡くした後に離婚する夫婦、結構多いように思う。
その10年を乗り越えたふたりの次なる試練。

この作品で描かれたクリニックは、ほぼ解脱しているピーターというキャラクターがいたこともあるが、なんだかすがすがしく聖かった。
天国行きの待合室のような清廉な明るさ。
それに院内でジャムバターつきのスコーンが楽しめる!UK!

そして、夫婦それぞれがそれぞれの試練をくぐり抜けて、他の苦しむ人たちに力を貸す。
髪を失ったジョーンの目の輝き。

わたしは、あなたの信仰がなくならないように、あなたのために祈りました。だからあなたは、立ち直ったら、兄弟たちを力づけてやりなさい。(ルカ22:32)

エンディングはもちろんあれ以外にないんだけど、新しい友人を迎えた3人でのクリスマスディナーの風景をちょっと見たかった。

何度も読み返した乳がん闘病記。

ジョーンも怖がっていたように、映画でのがん治療の描かれ方といえばいつもキーモの副作用。
症状にはかなりの個人差があるらしいけど、直近にサバイブした友人も吐き気と闘っていたし、30年前とあまり変わっていないようだ。さくら先生も副作用が辛くてキーモを中断したと報道されていたなぁ…。

トレーラー。

映画 The Photograph (2020) を見た。ステラ・メギーの『ザ・フォトグラフ』

バレンタインデームービー第1弾(この連休中にもう1本見る予定)。
いわゆる退屈な映画を久しぶりに見た。

嵐の日に大事な人たちと暖かいおうちでヌクヌクするところと、部下に辞職を告げられる上長のショックに共感したくらい。

このレビューを読んで笑ってしまったのだが、

Watching "The Photograph" is like looking through a friend's old photo album - it's not as exciting as your friend thinks it is.
Johnny Oleksinski - New York Post

確かにそのとおりな一方で、引き込まれる物語といえばいつだって人物伝だ。有名無名問わず。
しかもメイさんのお母さんは80年代に写真家になろうとニューヨークに出たわけで、本来なら一番面白いはずなのだ。

脚本がいまいっちーなのはもちろんのこと、音楽がうるさい、アートワークが物語の雰囲気に合っていないのが気になった。
主役2人は華やかなだけ、お笑いパート(兄弟の家とオフィス)も、出てる人たちが一生懸命頑張ってるものの不発だった。
先述のボスは少ない出番ながら、地に足ついた存在感でよかった。

トレーラー。

映画 The Assistant を見た。キティ・グリーン × ジュリア・ガーナー『アシスタント』

あるニューヨークルーキーの1日を綴った不思議な佳品。

アシスタント

アシスタント

  • ジュリア・ガーナー
Amazon

ミネラルウォーターの封を切って冷蔵庫に入れるとか、詰まったコピー用紙を取り除くとか、彼女の手元は自分の手元かと思うくらい既視感でいっぱいなのに、人形の家をのぞき込んでいるかのような現実離れした感触がある。
上着を机の一番下の大きな引き出しに丸め込むとか、リアル・オブ・リアルだよ。
入れ替わり激しい & 要職ではないポジションの引き出しはカラなんだよね。
他のエグゼクティブは、ちゃんとコートかけを使ってるわけ。

舞台っぽくもあるのは、ボスが一切顔を見せないからだろうか。
実はポスターを見てヨーロッパ映画だと思い込んでいたのだが、その広告表現が適切だったことが分かった。

スケジュールをプリントアウトし、小切手を手書きしているのはなぜだ。
スマホがなければ、いつの時代の話なのか考え込むとこだった。
でも、残念ながら舞台は今このときなのだ。

彼女の場合、日の出前出勤、日没後退勤なので、8時間を超えていると思われるけど、それにしても1日の労働時間て長いね。
ひたすら振り回されている彼女を見ているだけでくたびれた。

オフィスの外が再び暗くなると、すごくイヤな終り方をするのではないかという不安がわいてきた。
明朝もまた早いのだろうか。

入場時、もぎりのお姉さんに「はい、パラサイトね...あ、ちゃうわ...」と言われるなど。
今回の作品賞は、ちゃんと街の一般ムービーゴーアーの気分が反映された感があって嬉しかった。
少なくとも、アンジェリーノは1917じゃないぜ!と思っていた。
既にロングラン、ますますヒットしそうです。

2/17/2020追記、
『騎士団長殺し』(単行本の装丁がへぼい...ドロップシャドウ...)を読み終わったので、『みみずくは黄昏に飛びたつ―川上未映子 訊く/村上春樹 語る』を再読している。
以下の記述は優れた芸術作品の共通要件だと思うが、この映画を想起させた。

本当のリアリティっていうのは、リアリティを超えたものなんです。事実をリアルに書いただけでは、本当のリアリティにはならない。もう一段差し込みのあるリアリティにしなくちゃいけない。それがフィクションです。
(中略)
フィクショナルなリアリティじゃないです。あえて言うなら、より生き生きとしたパラフレーズされたリアリティというのかな。リアリティの肝を抜き出して、新しい身体に移し替える。生きたままの新鮮な肝を抜き出すことが大事なんです。
(中略)
僕はただその人のボイスを、より他者と共鳴しやすいボイスに変えているだけです。そうすることによって、その人の伝えたいリアリティは、よりリアルになります。そういうのはいわば、小説家が日常的にやっている作業なんです。
―村上春樹

トレーラー。

映画 José (2018) を見た。クィア獅子賞受賞作『ホセ』のグアテマラ・ナウ

英語字幕で鑑賞。
2018年ベネチア国際映画祭クィア獅子賞受賞作。

さすがにラストの突き放しには劇場内に Huh? という声が上がる。

少なくとも、とても正直な作品だったと思います。

やだなぁ、貧乏は...。
彼らの貧乏具合は、年代は違うものの、『ローマ』の青年たちや『ザ・チェンバーメイド The Chambermaid (La camarista) 』たちと変わらない。

ここアメリカに住む同士たちを見ても思うが、どうも中南米のカトリックの教えには問題があるんじゃないかという気がしてくる。
あれだけ神を信じていて、金がないなんておかしいって !!!

ホセのお母さんも敬虔で、働きもので、きよい。
ただひとつ、将来の心配をしている点が不信仰。
教会でマタイ6章の解き明かしを聞いていないのだろうか...。

Jose [DVD]

Jose [DVD]

  • Strand Home Video
Amazon

トレーラー。

2020年アカデミー短編ドキュメンタリー映画賞ノミネート作5本を一気見した。

一気に見ると面白いことがいろいろあった。
まず、いろんな言語を一度に楽しめたこと(St. Louis Superman以外は全編ないしは一部分を英語字幕で鑑賞)。
それぞれの編集のしかたの違いが相対的に見えやすくなったこと。

印象に残った順に。
■ In The Absence『不在の記憶』
セウォル号沈没事故を扱う。ただただ記録映像が圧巻。
「難民、ファーガソンについての作品がある」という前知識だけで行ったので、こんなテーマの作品もあったのかというインパクトも個人的には大きかった。

ようやく船が引き上げられたものの、近寄らせてもらえない遺族たち。
「まだ何か隠してんのか!」「子どももこうして上から言われるままに従って死んだんだ!」という金網越しの絶叫に、涙を拭う体制側の警官の姿もこたえた。
それから、海中での遺体・遺品回収作業に携わり、数年後にPTSDを乗り越えられず亡くなったダイバーの残した声も。

■ Life Overtakes Me『眠りに生きる子供たち』
Resignation syndrome(生存放棄症候群)の特徴が非常に興味深い。
スウェーデンでのみ起きている、というのは単に自殺の連鎖や集団ヒステリーと同じで、無意識で「そういう方法もあるんだ」と認識したことによるサイキの影響だと思う。
実際、妹に続いて姉まで同じ症状を示すようになってしまった...という例が紹介されていた。

あとは、スウェーデンの避難環境が少なくとも他地域と比べてマシなこと、「意識を失っても身の危険はない」と子どもも分かっていることも大きいのではないか。
在留ステータスは不安定だが、まともな住宅で医師の往診を受けられ、筋肉を動かしたり、無反応でも一緒に食卓につかせたり、散歩に出たりと必死に世話をしてくれる家族がいる。
もし、米国の移民拘留センターなんかで眠りに逃げたら、放置されて死ぬだけである。
だから米国で強制送還に怯える子どもたちにはこの症状は発生しない。
東京の入管に親をとられた子どもたちも似たようなものではないかと思う。

それにしても、親御さんたちはタフだ。自分自身、故国であれほどの地獄を見ているのに...。
セウォルのダイバーさんみたいにならないように、しっかり自分もいたわってほしい。

Netflixで公開中。
https://www.netflix.com/title/81034980

■ St. Louis Superman『セントルイス・スーパーマン』
アクティビストでラッパーのBruce Franksの闘争。
彼もまた、本編の撮影後にも次々と知人が銃弾に倒れてしまったことでうつ症状が出て休みをとっているという。
引っ越しちゃう、という選択肢は彼らは取らない。悲痛だ。

■ Walk Run Cha-Cha『ウォーク・ラン・チャチャ』
「パフォーミングアーツに目覚める中年」を追った短編ドキュメンタリーって定期的に作られてるよね...。
学生の作品を含めて、覚えてるだけでも4本目である。
今回はここロサンゼルスに住むベトナム系の夫婦が主人公。
最後の本番パフォーマンスは良かった。後ろの座席のおっさんもしきりにsweetと絶賛していた。

■ Learning to Skateboard in a Warzone (If You're a Girl)『ラーニング・トゥ・スケートボード・インナ・ウォーゾーン』
ハリウッドのリアリティ番組みたいな体裁でちょっと編集がうるさかった。
もちろん、女の子たちには勉強もスケボも続けて夢をかなえてほしいと心から願いました。

2/9/2020追記、
とはいえ、Learning to Skateboard in a Warzone (If You're a Girl) が受賞。

In The Absenceは、YouTubeで公開中。
人間として、私はこの船長を責められません...。ただ悲しい。