英語あそびなら天使の街

在L.A.言語オタ記。神さまのことば、天から目線の映画鑑賞日記。

映画 Uncut Gems (2019) を見た。アダム・サンドラー『アンカット・ダイヤモンド』

信頼する人が秀作だと褒めるので見に行った。

ひどくサタン的な空気の充満する作品。
ジワジワと言葉の暴力の毒が回ってきて、最後には自分まで悪態をつきたくなるような。
霊的に弱っている人にはおすすめしない。
2時間に吐き出されるFワードを数えたら千を超えるのではないか。

全く縁のない世界なので面白くはあるが、なんとガラの悪いことよ...。
もうほんと、ろくでなし系の怒声の応酬は耐えられない。

それでいてこの主人公(アダム・サンドラー)にはまともな子どもたちがいて、ユダヤ教もプラクティスしていて...となんというか多面で信じがたい人物なのだ。
こんな口の汚いお父さんイヤや。
お連れ合い(ドスコイ系妻がはまっているエルサ。ディズニーはキャラクターの年齢に近い人を起用するイメージがあったのでもっと若い人だと思っていた)の苦労がしのばれる。

子どもに隣家のトイレを借りさせる場面で、その手の件の不快感を思い出してしまった。
引っ越し屋さんにトイレ貸してと言われ、退出する家だったこともありOKしたら後で便座が上がっていてイラーーーっと頭に血が上ったとか。
日本の会社に勤めていたとき、いつも客先でトイレを借りる上司を恥ずかしく思っていたこととか。
いや、私だっていつか切羽詰まることがあるはずだし、さばいてはいけないのですが。

本作はNetflixで1月31日全世界公開です。繰り返しますが、閲覧注意...。

トレーラー。

映画 Hidden Life (2019) を見た。『名もなき生涯』Trotzdem Ja zum Leben sagen.

家族から国家まで選べない共同体に生まれ落ちるにとどまらず、1人では生きられないようにプログラムされた人間というものの皮肉を思う。

フランツとフランツィスカも、あのように揃って神のほうを向いて、2人だけで生きていけるならよかったのに。
神はそれを許さなかった。

神は人の集まるところに臨在すると約束されている。イエスなんか、教会がからだだと言っている(つまり、「人と交わらないキリスト者」はいない)。

人がひとりでいるのは良くない。(創世記2:18)

あなたがたのうち二人が地上で心を一つにして求めるなら、わたしの天の父はそれをかなえてくださる。二人または三人がわたしの名によって集まるところには、わたしもその中にいるのである。(マタイ18:19、20)

良心を貫こうとすると、共同体に生きる人間の場合、結局連座制になってしまうのがつらいところ。
自分だけでなく家族や大事な人たちが権利を奪われたり、近い人たちから圧迫を受けたりしてしまう。
いま、この国や日本で徴兵が行われたらどうなるかな、と想像する。
周囲にいる人たちがさっさと応じるようには思えないけれど、本作の状況のように教会の兄弟姉妹含めて全員行っちゃったら、私も従ってしまうわ、きっと。

最後のエリオットの引用は良かった。
ほんとに世界はunsung heroesに負っているのだと実感するから。
死刑を宣告されたフランツは誰かの倒れた傘を元通りにした。
神でさえ、ひとつの街を滅ぼす前に、信頼する人間に相談して相当の譲歩さえしたのだから。
今この瞬間も、たぶん誰か知らない人(故人かもしれない)の祈りに支えられているのだ。

私はフランツィスカの祈りをマネしたい。
「あなたは私が愛する以上に彼を愛しています。どうか彼に勇気と知恵と力を与えてください」

ところで、生存戦略として農家は最強だなぁ。
今の人たちがどれだけ「つぶしのきくスキル」「どこでも食える職業」「需要=給与の高い人気職」とか言ったって、社会が壊れ、金銭の価値がなくなったら即食えなくなる。農家の人たちと物々交換するしかないが、彼らも毎日医療やヘアカットが必要なわけないし。

それから、ナチのシステムのアンバランスさが気になった。一応裁判をしたり、囚人にも外の空気を吸ったり、手紙書いたりする自由はあったりして、へんなところで人権配慮にコストをかけてるように見えるのよ...。

トレーラー。

映画 Little Women (2019) を見た。グレタ・ガーウィグの『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』

大勢の子どもたちで埋まった劇場内、大喝采。

このポスターをバス停で見かけたとき、吹き抜ける新鮮な風にハッとした。
きっとみずみずしいインタープリテーションなんだろうな~と思った。

実際に作品を見て、広告が実に的確だったのが分かった。
まさにこのイメージから喚起されたとおりの内容で。

『若草物語』には何のかのと親しんできた。
小学生のときにリライト版を読んだのを皮切りに、学芸会では寸劇にして演じた。べスのピアノはオルガンで代用。
大学受験前に初めて原書を読破し、その後はノートにコリコリと翻訳をしてみたりもした。

これまでに見たアダプテーションは33年版(ジョージ・キューカー監督、キャサリン・ヘップバーン)、49年版(エリザベス・テイラー)、94年版(ウィノナ・ライダー)だが、特に感銘を受けたものはなかった。
どれもエピソードの消化に大忙しという感じで。

ガーウィグ版が上記に比べてはるかに優れている、というか好き!と思った点は数えきれないがいくつか挙げてみる。

  • 技術面の進歩のおかげか、照明がしっかりローソク頼りでいい。19世紀の実情に近いのでは。これを見た後にはもう過去作品はのっぺりし過ぎて見られない。
  • 姉妹が小説の設定年齢に近く見える。長女のエマ・ワトソンまできちんと若い。
  • ベスが新しい。他3人と異質でありつつ、きちんと共通した面も描かれている。
  • 物語の中の役割として私が好きな、ローリーのおじいさんの出番が多い。
  • エイミー(『ミッドサマー』で地獄を見たフローレンス・ピュー、本作でも花冠をかぶるシーンがあってさ)がいい意味でぶさいく。原作でも好きなエピソードのひとつ、スケート靴を持ってジョーとローリーを追うシーンは必死で良かった。パリからベスの喪に服すために帰還したのに、むしろジョーが自分とローリーとの結婚を怒ってやしないかということを心配しているとこなんか、いいですね。
  • 男女ともに衣装がチャーミング。
  • そして何より、ジョーとローリーの邂逅から別れ、その合間の2人の仲良しチョケぶり、切ない好意のアンバランスが丁寧にすくってあること。ジョーが髪を売って戻ったシーンで、姉妹たちが悲鳴を上げる中、ローリーがニヤッとして見せたのは驚きがあった。そんなダチの2人。だからこそ、カップルになれなかったのは悲しかった...。親友と結婚するって幸せなのに!

少し力んだのか、ジョーの作家としての交渉の場面なんかが付け足してあったけど、はっきり言ってそういう「説明」はどうでもいいのだ。
本作のように原作のエピソードがいきいきと描いてあれば、それだけで姉妹たちが自由な精神を携えた自立した人間であることが伝わるもの。
常にちょっとした悪役?のマーチおばさん(メリル・ストリープ)さえ、ユニークな意志を貫いていることが分かる。

アメリカ建国期から続く古い町、コンコードを舞台にしたこの物語のAmerican valueを一番よく引き出した演出だったと思う。
ひとつエッセンスを引用すると、「オカンがいつも言っているじゃない」とベスがジョーに促した次の言葉かな。

Do it for someone else.

ついでに、40年努力を続けているというオカン(ローラ・ダーン)の知恵の元ネタは聖書ですね。

憤ったままで、日が暮れるようであってはならない。(エペソ4:26)

この数日間でグググと戦争の危機が迫ったわが国。今年、何とかアメリカがこの精神を保って存続できますように。映画館に通える日常が続きますように。

【2/10/2020追記】
母の知恵"Do it for someone else" について、スポルジョン牧師の本にうまいこと言ってる箇所があったのでメモ。

ある清教徒は「クリスチャンが自分のために彫刻するならば、必ず指を傷つける」と言ったが、これは大きな真理である。

『若草物語』が今なおフレッシュなまま読み継がれているのは、オルコットがベスのために、つまり神のために一心に書いたからなのでしょう。

【10/2023追記】
2017年のBBCミニシリーズ版の脚色もかなり良い。
『リトル・マーメイド』のエリック王子が演じるローリーは一番好きかも。
音楽も大きな役割を果たす。↓

原作は、随所に古典の引用が出てくるのを除けば、比較的平易な文章だと思います。

私の気に入ったシーンの解説。最高。

タダで見せてもらって申し訳ない充実のバージョン比較コンテンツ。

トレーラー。どの顔も全然似てないことだけは突っ込んじゃダメよね。

特に慌ただしい感じがした版。エイミーだけはキルスティン・ダンストとサマンサ・マシスの2人が演じ分け。

エイミー演じるエリザベス・テイラーの大袈裟さにイライラする版。

若草物語(吹替版)

若草物語(吹替版)

  • エリザベス・テイラー
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映画 Bombshell (2019) を見た。トランプ時代前夜の『スキャンダル』

全米70か所以上で、トランプ政権のイラクでの暴力に対する抗議運動が行われた日に。

映画は面白かった。
本件の直後に大統領選があり、この事案含め、大勢の女性が大統領候補のセクハラを訴えたのが全然勘案されなかったように思えたこと込みでショックだったんだよな。

さらにその後、Women's MarchやMe tooが起きて、今では毒だしのための必要悪だったのかもと思えたりもする。

従業員が保身のためにCEOをかばったり、声を上げようとする人の足を引っ張ったりしたことで長年にわたって秘密を温存し、被害を増やし続けたフォックスの体質は、性虐待を長年隠蔽したカトリック教会や米国体操チームと同じ。
特に、普通の人が「仕事がなくなるから黙っといて」と言わざるを得ないのが悲しい。

セロンのメーガン・ケリー扮装メイクは秀逸で、中の人が分からないほどなのだが、不思議なことに声を上げていく終盤になるにつれ、ノーメイク(設定)の場面を経てシャーリーズ・セロンに見えてくる。演出なのか、見る側の目が慣れてきただけか。

無難なニコール・キッドマン、たまたま先日、『ビッグ・リトル・ライズ』のシーズン2を一気見したばかり。シーズン1を見ていなくても十分楽しめたが、多分、機内でなければ第1話だけで見るのやめてた。

マーゴット・ロビーをサポートする「フォックスのレズビアン」ケイト・マッキノンがとても良かった。

まあ、でも共和党討論会の報道時の衣装は「不適切」で気になったよね、実際...。

スキャンダル (字幕版)

スキャンダル (字幕版)

  • シャーリーズ・セロン
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トレーラー。

映画 Cats (2019) を見た。トム・フーパー監督『キャッツ』

学校の吹奏楽で「メモリー」なんかを演奏した経験はあっても、実はまともに『キャッツ』を見たことがなかったのでどんな構成なのかと行ってみた。
ストレスのたまる作品。
ジュディ・デンチが出てくるまでは特に厳しくて、何人か観客が途中退場。

ダンス、特に群舞のシーンはエフェクトがばりばりかけられているのが気持ち悪くて。
耳もしっぽも動かさなくていいから、ダンサーの生の動きを見せてくれ!とひとしきり。
『美女と野獣』実写版と同様、ポストプロダクションがソウルの発露を妨げている。

キャッツ(字幕版)

キャッツ(字幕版)

  • ジェームズ・コーデン
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昔、少し小劇場に携わっていたとき、衣装を着こなせず演技に支障をきたす役者に「衣装に引っ張られている」という指摘をする演出家がいた。
本作はまさにパフォーマンスが衣装に引っ張られてます。
役者さんは引っ張られなかったかもしれないけど、演出が引っ張った。
『コーラスライン』や『ウエストサイト物語』(ベイビードライバーのリメイク楽しみ~)のダンスがCGだったら見るとこないでしょ。
ネコのかぶりものしてても同じです。

ハドソンが歌う「メモリー」は良かった。前列のおじさんがむせび泣いていた。

いかにも人工照明を装った背景は舞台装置っぽくて楽しい。
『グレイテスト・ショーマン』もこんな感じでしたね。
でも、ネコたちの尺の対比が気になった。
全体的にサイズが小さすぎないか。舞台よりもヘンな意味でリアルにしたのかもしれないけど、ベッド上とか線路上のサイズ感が妙だったと思います。

白猫ヴィクトリア役のフランチェスカ・ヘイワード、美しいのだけれどちょっと表情つくりすぎ。バレエ・ダンサーゆえ?

テイラー・スウィフトはテイラー・スウィフトにしか見えない。ボンバルリーナでなく彼女本人のショー。
そしてカメオ出演みたいな出番の少なさ。

どのネコもみんなハグしたらモフモフして気持ちよさそう。。。と思った。

オランダ語字幕で鑑賞。

やはり舞台で見たい。

キャッツ (字幕版)

キャッツ (字幕版)

  • ジョン・ミルズ
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トレーラー。