英語あそびなら天使の街

在L.A.言語オタ記。神さまのことば、天から目線の映画鑑賞日記。

映画 Waves を見た。トレイ・エドワード・シュルツ作『ウェイブス』

高解像度で綴られたゆるしの物語。
この内容で2時間もひきつける弱冠31歳の監督の手腕に舌を巻く。
観客の没頭ぶりは、悲劇のシーンで上がった、今まで映画館で聞いたことのないような腹の底からの悲鳴にあらわれていた。

自分の目には『ムーンライト』の残像も多いに重なっていたと思うけど、この物語の舞台が南フロリダであることには必然性があった。
私が初めてかの地に行ったのはもう30年以上前。とにかく砂が白かったのが印象に残っている。あとワニ沼に落ちかけたこと...。

世界の広さを知らないティーンズライフが小さな悩みでめちゃくちゃ翻弄されるのは想像つくけど、主役のタイラーはあまりに甘ちゃんボンの卑怯者でわりと驚いたかも。

エミリー章、ガン患者の登場は唐突でしたが(監督の実体験に基づいているらしいけど知ったこっちゃない)、誰もがゆるすことを覚えなきゃいけないからね...。
起きるべき神の計画だったのでしょう。
デビルよりもモンスターよりも罪ぶかき存在、われは人間なり。

憎しみは争いを起し、愛はすべてのとがをおおう。(箴言10:12)

ひとつ小ネタでメモしておきたいのは、風呂場でハンバーガーをかじる絵(しかも泣きながら)が新しかったということ。
ところで、ルーカス・ヘッジズくんのキャリアの積み重ね方はスマートだよねえ。職人ぽくもある。
エミリーをデートに誘う場面、すごく良かった。
(後で「アレクシスの仇〜」とか言って豹変しないか少し不安になる誘い方でもあった。そういう映画じゃないと知りつつ。)

WAVES/ウェイブス(字幕版)

WAVES/ウェイブス(字幕版)

  • ケルヴィン・ハリソン・ジュニア
Amazon

トレーラー。

映画 Charlie's Angels (2019) を見た。エリザベス・バンクスの『チャーリーズ・エンジェル』

このシリーズは初見。クリステン・スチュワートが好きなので観に行く。
イスタンブール旅行もできて結構面白かった。
タイトルシーンから一貫してガールズエンパワーメント映画ですね。
出てくる女性たち、全員self-possessedで好きになりました。
特にエラ・バリンズカの美しいことといったら。
過去のエンジェルズたちも顔を出していたっぽく、私は全然彼女たちの現役時代を知らないながらも「先輩、ありがとう」という気持ちに。

でも闘う彼女たちの傍らにオーガニック飯用意して整体して空気を和らげてくれるオカン役のセイントがいて、みんなが、特に新人のナオミが励まされているのがね… やっぱり集団にああいう役の人って必要なんでしょうか。

仕方ないけど、エンジェルズ御用達のハイテク機器がSONY製なのが弱冠気になった。

最近、何かの番組で「ブロックバスターのアクション映画とインディペンデントのドラマ映画のチケット代が同じなのは非合理的だ。制作費などによって適宜変えてもいいのではないか」という議論を聞いた。
私もそれはちょっと思ってた。
でも米国の場合、そもそも映画館や時間帯、新作か否かなどによって毎回値段が違うので、一観客としては今後さらに価格の変数が増えても気にならないというか気づかないだろう。
「あれ、やすっ、たかっ」と思うことが今より増えるくらいかな。
ちなみに今回は7.5ドルで、よく行く映画館ながら初めて当たった価格設定だった。

チャーリーズ・エンジェル

チャーリーズ・エンジェル

  • クリステン・スチュワート
Amazon

トレーラー。

映画 Marriage Story を見た。スカーレット・ジョハンソンとアダム・ドライバーの『マリッジ・ストーリー』

丁寧なクラフト。
かなり精緻ながら、指紋の跡はしっかり残っているような。
映像やセリフで感情が動かされた自覚がないのに涙が流れているのに気づいてビックリした。
魂ではなく、霊が本物にふれて震えたのでしょう。

ひたすらスカーレット・ジョハンソンとアダム・ドライバーの芸を鑑賞する映画なのだが、NY/LA芸能界お仕事モノ、「離婚業界」モノとしても実に面白い。
弁護士費用とか親権とか州の法制度の差とか、チェックを切るシーンまであってめちゃ具体的やぞ。
私も「カリフォルニア州では結婚しないほうがいい」と何度も言われたけど、その理由の一端が分かるよ...。
(もちろん、それは離婚の可能性を前提にした助言だったわけで、どれだけプラグマティックなのかという話だが)

友人たちを見ていても思うけれど、これほどいろんな意味で消耗するのに「今の生活を変えたい」という理由で離婚を選ぶアメリカ人は本当にエネルギッシュだ。
人生に対して貪欲というのだろうか。
観客の前のめりぶりを見るに、この街に"I've been there" な人がどれだけ多いかを思い知らされた。

何人か出てくる弁護士が全員達者。気まずいオーラ全開の家庭調査員の微妙さもかゆいとこついてる。
かわいそうな役が続いていたローラ・ダーンがノビノビとやり手を演じていて面目躍如。良かった。

愛の始まりがよみがえるラストの爽やかさは唯川恵の小説『燃えつきるまで』の結末に似ていた。
その記憶は決して朽ち果てない、いや忘れてたまるかという誓いにも似て。

スペースという言葉がひとつのキーワードだったが、LAの茫漠とした広さを嫌ってポートランドに移住した知人が何人かいる。
逆に「この生活費でこのスペースはナイわ」とオースティン、ヒューストンやフェニックスに移って行く人も。

ジョハンソンの衣装が平凡ながらステキでマネしたいと思った。
NordstromとTargetで揃いそうでリアルなの。
リアルついでに言えば、ドライバーが立って済ませる適当なランチにコスコっぽいチキンを食べていたのもあるあるでした。

本作はNetflixで12月6日全世界公開です。

【朗報】本作では遮られてしまったアラン・アルダのヘアドレッサーネタのオチはこちらで。

トレーラー。

映画 Last Christmas を見た。エマ・トンプソンら原案・脚本『ラスト・クリスマス』

めちゃ評判悪い本作。でも楽しみにしていたのでめげずに見に行く。

想像以上にトホホなシロモノ...。
過去の物語の要素をいろいろつまみ食い、しかもその一つとして成功してない...。
観客からもほとんど笑い声は上がらず。
出演者たちは、原案・脚本のエマ・トンプソンを眼の前にして何も言えないけど、これは製作を進めるに値するのだろうか、ねえ...、という感じだったのでは。
特にヘンリー・ゴールディング。あんな役をふられたら頭の中がハテナでいっぱいになるわよ。

そのエマ・トンプソンの芝居もまた良くない。『レイト・ナイト』は役柄でごまかせてたけど、この方は喜劇はダメだと思う。
そして、ヘアスタイルと衣装のせいもあるだろうか、ミシェル・ヨーがどうにも美しく撮られていない。
『グリーン・デスティニー』、『クレイジー・リッチ!』のあのconfidentな彼女は何処。

一点だけエピソードを挙げれば、ケイトが名前を取り戻したところはスマートだった。
「英語話せや」とヘイトをかまされた移民カップルに、自分も同じ出自だと声をかけ、名前を聞かれて「カトリーナです」と答えるの。
『千と千尋の神隠し』や聖書物語でも描かれたように、自分のIDを認めた瞬間ね。

ロンドンの小路とイギリス英語は楽しめました。

11/11/2019追記、
『マリッジ・ストーリー』にも「トンでる母」が出てくるのだが、全然イヤミがなく、本作のエマ・トンプソンがいまいちだった理由が分かった。
彼女ははしゃぎ過ぎなのだ。

クリスマス映画といえば、今でもこれが一番好きですね。

素晴らしき哉、人生!(字幕版)

素晴らしき哉、人生!(字幕版)

  • ジェームズ・スチュワート
Amazon

トレーラー。

監督はミシェルを激賞してるんですけどねえ...。

映画 Harriet を見た。私のフリーダム・ネーム『ハリエット』

1800年代後半アメリカの出エジプト記。
久しぶりに終映後の拍手を聞く。
映画というよりも、最後に数枚のテロップで紹介されたハリエット・タブマンの生涯「その後」に対して、という感じだったが。

彼女はモーセのように祈る人だったが、「あなたの言われたとおりここに来ました。それなのになぜこんな目にあうのですか」という問いかけが、状況は失礼なくらい異なるものの私の最近の祈りとまったく同じで「そうそう!こたえくれー」と同調した。

トニ・モリソンが亡くなってから、「名前」の持つ力についてよく考えている。
聖書はもちろん、江戸時代の物語にも「名前って大事よ」というメッセージが織り込まれている。
逆に子どもに1号、2号、3号と名付けて、4番目からは1号に戻る…という文化もあったりするのが面白い。
話がそれたが、ハリエットというfreedom nameに感じ入ったゆえんだ。

When you know your name, you should hang on to it, for unless it is noted down and remembered, it will die when you do.
―Toni Morrison

それにしても、無理くり連れて来られたアフリカ系アメリカ人がキリスト教を深く内包して力にしているのは皮肉だなあと思う。
かれらの宗教史をきちんと勉強したことはないが、元は征服を善とする白人の「主人」からの伝道だったのだろうから。
キリスト教が今まで生きながらえている理由はやっぱり「適当だったから」((C)佐藤優)ということに尽きるのか。

そしてハリエットの辞世の言がキリスト気取りな件。
もちろん、これほど彼女の功績を的確に言い表す言葉もないのだけれど。伝記作家のねつ造かと思うほど出来過ぎである。

わたしは、あなたがたを迎える家を準備しに行くのです。 (ヨハネ14:2)

トレーラー。